2011 Fiscal Year Research-status Report
ビジネスと人類学に関する実践的・メタ人類学的研究:日英米の国際比較の視点から
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23520983
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
伊藤 泰信 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 准教授 (40369864)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 産業系エスノグラフィ / メタ人類学 / 日本・英国・米国 |
Research Abstract |
本研究は、文化人類学(人類学と略)の手法が、産業・ビジネス界においてどのように「活用されているか」を、人類学者が観察しようというメタ人類学的な試みである。同時に、(広義の)ビジネス実務に資する人類学を申請者が実践的・内省的に検討する。一方で、人類学という知の幅を押し広げる可能性を持つものとして、人類学的手法を取り入れつつある産業界・ビジネス界の動向を積極的に捉え返し、かつ、他方で、広義のビジネス実務に人類学的がいかに資するか、その有効性と限界が探ろうというのが本研究の目的であった。 具体的な研究計画・方法は(1)産業と人類学との関わり合いの歴史的・理論的(批判的)検討、(2)企業における人類学的手法の実務応用の日英米国際比較、(3)人類学(エスノグラフィ)の実務応用可能性についての実践的検討、および(4)将来的な人類学への展望の獲得である。 英国では、人類学者・実務者らと面談を行い、比較の視点から理論的・実践的な含意を導き出すことを試みた。対象の研究者・実務者らは、企業でのリサーチ経験をもつ大学の人類学者、ビジネススクールで教鞭をとる人類学者、マイクロソフト(ケンブリッジ)の実務系研究者、人類学のバックグラウンドを持つマーケティングリサーチャー、国際ビジネス人類学会の立ち上げに参画しているロンドン訪問中の中国の人類学者等々、多岐にわたる。日本においては、企業所属の研究者や実務者への面談もおこなった。日本在住の米国企業所属の研究者および、エスノグラフィを実務に取り入れている日本(大阪)の企業の実務者である。 また英国では、自身の実務エスノグラフィについての発表の機会を通じて研究者らとのやりとりから知見を深め、日本では、中間報告的な意味合いも込めて文化人類学会主催のシンポジウムで講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記(1)および(2)に関連して、英国では、ロンドン近郊の研究者・実務者らを対象としたインタビュー調査を実施した。 日本の現状とは異なり、(i)英国の人類学における、人類学と産業界・実務界とを繋ごうとする試み、(ii)英国のビジネススクールにおける人類学的手法の取り込み、という点において示唆が得られたことが達成の成果の1つである。例えば、(i)人類学部において、精密機械メーカーやマーケティング会社所属の人類学者を囲むセミナーなどが実施されるなど、人類学(大学)と産業界・実務界との繋がりが、日本よりも密接であった。人類学部大学院の学生向けに、産業界・実務界での将来的な活躍を促すような仕掛けを作ろうという試みと言える。英国人類学会(ASA)の応用人類学部門 においても、人類学をいかに実務界で活かすかに関する若手のイベントが実施されていた。さらに、例えば企業での実務経験(リサーチ会社、デザイン会社、テレビ局における実務経験)を持つ人類学者が教員として大学人類学部へ戻っている例が散見された。大学所属の研究者のみならず、学問と実務とを架橋する人材を輩出しようとする動向(学問と実務との垣根が日本よりも低い状況)が看取されたわけであるが、これは現在の日本ではいまだ見られないものであり、将来的な日本の人類学へのヒントを含むものである。更に、(ii)主流とは言えないにせよ、ビジネススクール(MBA)の授業において、消費者調査手法としてのエスノグラフィや、消費者を取り巻く文化的・歴史的・社会的コンテクストについての人類学的知見が、人類学者によって教えられている事例もあった(オックスフォード大学サイードビジネススクール)。更なる調査・検討が必要であるが、こうした動向を、具体的な諸事例を通じて把握しえたことは1つの達成度を示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の、(1)産業と人類学との関わり合いの歴史的・理論的(批判的)検討、(2)企業における人類学的手法の実務応用の日英米国際比較、(3)人類学(エスノグラフィ)の実務応用可能性についての実践的検討、および(4)将来的な人類学への展望の獲得、という具体的な研究計画・方法に沿って、今後もさらに調査・研究を推し進めていく。 平成24年度・25年度は、日本企業において活用・普及される人類学的手法(エスノグラフィ)についての実例を、さらに調査する。その上で、すでに交流を進めつつある米国・英国の研究者らとの議論・意見交換を継続する。とりわけ、申請者が行っている日本企業との共同研究と、米国・英国の研究者らが行っている企業との協働関係とを比較しながら、人類学的な知の実務応用への展望を整理する。 最終年度においては、日本企業の調査において集積されたデータ、英国・米国での事例との比較を通して得られた洞察を元に、研究発表を国内外の学会やセミナー等において行う。また、人類学教育の今後(ひいては人類学の将来)に、それらの洞察がいかに活かしうるか(例えばアカデミアの外部、とりわけ企業への、人類学的素養をもった人材の輩出はいかにありうるか等)について知見を導き出す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は勤務大学のサバティカルに該当し、主として英国ロンドンに滞在しながら研究を進めた。そのため、英国への渡航費に使用しなかったことから(一部英国国内の移動旅費および隣国仏パリへの旅費のみ使用)、未使用額が生じた。また、遠隔通信用ポータブルPCの購入も、1年間の渡航準備および渡航に伴い、物品購入調達がスムースにいかず、先延ばしになっていた。 平成23年度の未使用額と平成24年度の研究費をあわせた使用計画としては、事例調査のための英国および米国渡航旅費、日本企業に関する実例調査のための日本国内における調査旅費、および、 主に上記(1)(2)を推し進めるための更なる文献調査(関連書籍の購入)などに使用する予定であり、あわせて遠隔通信用ポータブルPCも購入を予定している。
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Research Products
(4 results)