2012 Fiscal Year Research-status Report
地域の生存戦略と「日韓交流」:近現代対馬における交通・接触・他者表象
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23520988
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
村上 和弘 愛媛大学, 国際連携推進機構, 准教授 (40363262)
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Keywords | 対馬 / 日韓交流 / 交通 |
Research Abstract |
本研究の目的は、近現代対馬における日韓交流の実態調査を通じ、人々が地域の歴史性や特色をどのように利用してきたかを明らかにすることにより、生存戦略としての「交流」現象の立体的解明を図ることにある。 まず平成24年5月には「釜山2012朝鮮通信使祝祭」参加の「対馬武士団」に同行し、参与観察調査を行った。また同時期同地にて開催された「朝鮮通信使縁地連絡協議会」総会にも出席し、「通信使」「日韓交流」をキーワードとする自治体ネットワークの現状及び構想についても知見を得た。次に、8月には対馬市厳原町にて「厳原港まつり対馬アリラン祭」(厳原町)の参与観察調査を行うとともに、対馬市各地(美津島町・上県町・上対馬町)にて韓国との交流状況および交通の変遷についての聞き取り調査を行った。さらに8月には門司税関にて主に「変則貿易」関連の資料閲覧を、9月には東洋大学白山図書館にて「対馬領有問題資料」一式の資料閲覧を、また10月には国立国会図書館にて対馬領有権問題に関し、GHQ資料の調査を行った。 これらの調査で得られた成果は以下の形で公開した。 まず「日本島嶼学会2012年度大会」(9月、海士町)にて「変則貿易」について発表を行った。次に「第37回中四国人類学談話会」(11月、県立広島大学)にて、対馬の「離島性」と「国境性」についての論考を発表した。また「アリラン祭」のメインイベント「朝鮮通信使行列」に関する論文が『比較日本文化研究』第15号に掲載された。その他、論文集(共編共著)1冊が刊行予定であり、現在、出版社にて校正作業中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記した通り、おおむね研究計画通りに進行している。 学会発表および研究論文等の形で、本年度までの研究成果をいわば「中間報告」として公開することができた。特にこれまで断片的にしか知られていなかった「変則貿易」について一定のアウトラインを描き出したことで、日韓国交樹立以前の戦後対馬における日韓交流の実情について、新たな知見を得ることができた。 昨年度末の時点でやや進行が遅れ気味であった北部地域の調査は、今年度実施した調査においてほぼ回復した。例えば、関係者との再会によって信頼関係が深まり、新たにインフォーマントの紹介を受けることが可能になった事など、である。一方、高度成長期に日本「本土」に渡った対馬出身者の親睦団体調査は進行が遅れ気味である。これは今も現役世代が多く日程調整が困難である点が挙げられる。また、日韓共同での「朝鮮通信使」世界遺産申請構想や仏像盗難問題等、対馬において日韓交流をめぐる状況が変動する兆しを見せており、対馬現地での状況調査を優先的に行う必要が生じているためである。 以上の通り、個別の調査については進行度に遅速はあるが、全体としては「生存戦略としての交流」現象の立体的解明が進んでおり、おおむね順調に進行していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の遂行に際しては、何よりもまず現地調査の実施、そして関係者との信頼関係の構築・維持が重要である。資料の多くが文献化・記録化されておらず、また、「国境離島における国際交流」について語ること自体が社会的・政治的影響を受けやすく、当事者にとっては発言に慎重にならざるを得ないテーマでもあるためである。特に最近は、仏像盗難問題をめぐり地域住民の対韓感情が批判的に傾きがちであるが、その一方で、主に自治体ネットワークを通じて日韓共同での朝鮮通信使の世界遺産申請構想が打ち出されるなど、対馬における日韓交流の様相はいくつもの動きが錯綜した状況にある。 そこで機会を捉えて現地を訪問し、信頼関係の構築・維持を図るとともに、直接、各種の活動状況を観察・記録する必要が生じる。「次年度の研究費の使用計画」にも記したとおり、機会があるたびに現地に通い、活動に参加しながら関係者との聞き取りを重ねることで、本研究計画を推進していく所存である。 一方で、文献資料の収集も継続する。上述したとおり文献化された資料は多くないが、それでも新聞(地方版)の掲載記事などを丹念に集めることで、戦後の交流実態については一定の資料蓄積が可能であるとの感触を得ている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」が157,436円生じたが、これは平成25年3月に予定していた現地調査を他プロジェクト経費にて遂行したためである。この次年度使用額は平成25年度における現地調査の充実にあてる予定である。 具体的には、まず5月の「2013釜山朝鮮通信使祝祭」に参加する「対馬武士団」一行と同行し、「朝鮮通信使」を利用した国際間の交流実態について参与観察調査を行う。次に、夏季に「定点観測」対象として「厳原港まつり対馬アリラン祭」の参与観察および関係者インタビューを行う予定である。なお、同イベントについては仏像盗難問題の影響から、今夏は「朝鮮通信使行列」中止が決定しており、また名称についても「アリラン祭」を外す方向であると伝えられている。対馬における日韓交流の代表的イベントであるだけに、これら変更の意味するものや影響について、慎重かつ重点的に調査を行う必要があると考えている。 さらに、夏季および冬季に、対馬北部における交流実態の調査を引き続き実施する。戦前期の実態に関する聞き取り調査に加え、現行の釜山-対馬航路の寄港地である比田勝地区における現状調査も実施する予定である。他の時期は主に文献資料の収集を行う。余裕があれば対馬南端部における状況調査および対馬出身者の親睦団体調査も予備調査として実施を試みる。
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Research Products
(4 results)