2012 Fiscal Year Research-status Report
海洋生物観光の実践現場における生態リスク意識と当事者参加型の予防的資源管理体制
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23520993
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
市野澤 潤平 宮城学院女子大学, 学芸学部, 准教授 (10582661)
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Keywords | ダイビング観光 / 環境保全 / 職業実践 / 不確実性 / リスクの資源化 / タイ |
Research Abstract |
2012年度は、主にタイにおいて、ダイビング・ツアーを実施している観光業者を調査対象として、その業務の実際について参与的な調査を行うとともに、ダイビング客へのインタビュー調査も実施した。調査期間は、2012年4月26日~5月8日、9月5日~19日、10月30日から11月7日。 調査においては、バンコク、パタヤ、プーケットにおける複数の事業者に対して、その業務内容の詳細を明らかにするためのインタビューを行った。さらに、調査者が観光ツアーに実際に同行して、そこでの業務遂行がいかになされているかを綿密に調査した。それらの調査を通じて、ダイビング事業者(特にダイビング・ガイド)が直面する、①ダイビング客の安全管理、②野生の海棲生物を見せることに関わる困難、というふたつの不確実性に対して、どのような対応がなされているのかについて明らかにしたうえで、ダイビング業界の構造やビジネス実践との関わりについて、考察を深めた。 特に①の不確実性については、ダイビング業界は、事故リスクの所在を知らしめ、リスク・コンシャスにさせた(潜在的な)消費者に対して、当該リスクの軽減手段(すなわちダイビング・ガイドや、各種の「ライセンス講習」など)を販売するという、いわば「事故リスク」の資源化が行われていることが、明らかになった。ダイビングにおいて、事故リスクは、短期的な売り上げの大小に結びつく資源であるが、環境(生態系)の保全は、それよりもはるかに長期的なスパンにおいて考えられる事象である。このような、考慮すべき不確実性やリスクの時間スパンの違いが、職業実践の現場における「優先度」の違いを生んでいるのではないかという、示唆が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年の東日本大震災の影響から調査活動の縮小を余儀なくされ、2012年度以降は調査地をタイに絞って、重点的に実施してきた。結果として、特に不確実性とリスクという観点からの、新たな調査データの積み上げが出来、また「リスクの資源化」という論点への発展可能性が見いだされた。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、現地調査はやはりタイを中心とするが、可能な限りタイ以外にも出張して、比較考察に努める。また、2012年度までは、おもに日本人経営のダイビング業者およびダイビング客の活動を中心に調査をしたが、2013年度はタイ人のプロフェッショナル・ダイバーおよびダイビング客の活動も、調査対象に加える。 本研究の申請段階では、ダイビング観光業者への環境保護意識の啓蒙などに踏み込んだ提言をすることを目標に掲げたが、三年間の活動期間から得られる成果を確実なものとするために、調査および考察の対象を、不確実性とリスクへの対処という点に絞り込むことにする。そうすることで、人類学におけるリスク研究の文脈において、新たな知見を提示できると考える。 併せて、ダイビング観光業と生態系資源をめぐって競合関係にある漁業と、ビーチリゾート観光開発の関わりについても、概観する調査・考察を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度の研究費の使途は、タイを中心とする現地調査に関わる旅費に、大半を充てる。併せて、ダイビング観光の現場におけるガイドたちの職業実践を記録するために必要な物品を購入する(デジタルカメラを水中に持ち込むためのハウジングなど)。
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