2011 Fiscal Year Research-status Report
森林資源の利用技術としての畑作と野生動物の管理に関する民俗環境史的研究
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23520994
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Research Institution | Tohoku Bunka Gakuen University |
Principal Investigator |
岡 惠介 東北文化学園大学, 総合政策学部, 教授 (90301697)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 森林管理 / 火入れ / 民俗技術 / 人里 / 境界ゾーン / 野生動物 / ニホンジカ / ニホンオオカミ |
Research Abstract |
1.森林を人里に改変する民俗技術についてヒアリングを進め、多くに事例を収集した。例えば、毎年火入れを行って植生を草地の状態に管理する採草地は、山菜などの自給食料の採集地でもあり、凶作時には、焼畑耕作地や、救荒食であるワラビやクズの根茎採集地ともなる重層的な利用が行われおり、山村の環境管理の技術としての、火入れの重要性が確認された。2.畑、焼畑、採草地、放牧地、薪炭林など人里と、森林との境界ゾーンの管理については、ヒアリング・データを蓄積した。境界ゾーンにおいて、野生動物の侵入を防ぐ管理技術として除草が重視され、その労働は家族のうち高齢者によって担われる傾向があった。また焼畑では、人が管理できない時間帯には、沢に設置したシシ脅しで獣害の防除を行った。3.耕作地や採草・放牧地の放棄状況については、設定した1960年代の利用について記憶があやふやな人が多く、まず航空写真などから可能な範囲で復元した図を示して思い出してもらう方法に変更した。この航空写真による土地利用の復元図を、現在制作中である。放棄は昭和60年代以降に拡大していくことが判明し、この時期に進んだ人口構成の高齢化との関係性を分析中である。4.ニホンジカは、各調査地における林業労働者らからの聞き込みによって、昭和40年代までは岩手県南の五葉山が北限であったのが、現在は岩手青森県境を突破してさらに北上しつつあり、少なくとも生息北限が100km以上北上したことが明らかになった。5.岩手県庁の保存文書から、調査地安家地区を含む岩手県の明治期のオオカミ猟の実態が明らかになった。明治10年代に安家のマタギが一人で、親子のオオカミを一部生捕の形で数回捕獲していたことや、オオカミ猟の方法を図解した絵図も発見した。またその他の野生動物の狩猟方法についても、記述があり、捕獲地点のマッピングなど分析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、高齢化が進行し疲弊する山村が森林資源の過少利用時代を迎え、予想される野生動物による被害の増大にいかに対処して共存を図るべきかを探るため、北上山地の山村が、どのように森林資源を改変して活用し、野生動物との緩衝帯を形成していたかなど、山村の民俗知識を集積して明らかにすることである。森林資源の改変の民俗技術については、焼畑や切替畑の造成時の技術や、森林への火入れ、牛の放牧による改変など、多くの事例が収集できた。森林と人里との境界ゾーンについては、除草の重要性がわかり、シシ脅しや柵の設置、そして逆に積極的な排除を行わずに野生動物の侵入を許すゾーンの存在など、興味深い事例が明らかになった。放棄された土地の植生変化とシカの分布拡大については、当初大震災の影響で現地での調査の開始が遅れたが、その後状況が好転してからは、順調に調査中である。明治大正期の野生動物の利用、商品化については、当初、平成23年度の調査計画に入っていなかったが、大震災の影響で現地入りが遅れたため、その時間を使って岩手県庁の明治大正期の保存文書の調査を行い、多くの資料が得られた。在来の雑穀の商品価値の変遷については、当初の計画通り、次年度以降の調査をめざしている。このように、平成23年度は、ほぼ交付申請書に記載した内容の研究を進めることができた。若干遅れたのは、耕作地や採草・放牧地の放棄後の植生の状況とニホンジカの分布の解明であるが、研究開始当初、大震災の影響で現地調査が滞ったことによるものである。一方、同時期に、岩手県庁保存文書などの文献資料の調査に力を注ぐことで、翌年度以降に予定していた明治大正期における野生動物の利用にかかわる、オオカミを中心とした狩猟や利用方法、商品化などについての資料が蒐集できた。全体としては、おおむね予定通りに進行したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、精力的に現地での調査を行って資料を収集することで、より本研究が推進できると考えている。特に、耕作地や採草・放牧地の放棄後の植生の状況とニホンジカの分布の解明は、現地でのヒアリング・データの充実が必要とされる調査になるので、十分な調査期間を確保して現地調査に集中することによって、研究を推進させることが出来るであろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、研究開始当初、東北大震災の影響で、調査地が被災地に近く影響があったこと、調査車両の燃料の入手が難しい時期があったこと、宿泊を予定していた家屋にも被害があって泊まれなくなったことにより、現地滞在調査の期間を縮小せざるを得なかった。このため、平成24年度は現地調査期間を延長して、旅費として使用する計画である。
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Research Products
(1 results)