2011 Fiscal Year Research-status Report
東アフリカ多言語併用社会に関する文化人類学的研究:タイタ語の世代間継承を中心に
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23520995
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Research Institution | Shobi University |
Principal Investigator |
坂本 邦彦 尚美学園大学, 総合政策学部, 教授 (20215643)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ケニア / タイタ |
Research Abstract |
東アフリカのタイタ人の世界に関する文化人類学的研究の一環として、タイタ語が異なる世代間にどのように継承されているか、その実態を明らかにすることを通して多言語併用社会における文化変化の研究方法に新たな視点を導入するとともに、現在、世界のさまざまな地域でおこなわれている存続の危機に直面している言語の記録、分析に関わる研究にその手法を応用することができるようにすることが本研究の目的である。これは、タイタ語のコーパスに関する研究の次の段階として、文化変化に関わる動的側面を研究対象としたものである。本研究の目的は、言語の世代間継承の実態を通して、文化変化の実際を文化の内側から描き出すことにある。研究目的の達成のために、4年間の研究期間を3つの段階に分けて進めていく。平成23年度においては、第1段階として、既に文字化して採録している言語データのうち基礎語彙2000語の中から1000語を抽出して内容により再分類し、語群に編成した。第2段階では、話者の性差、年齢差、地域性などによりタイタ語にどのような認識上の違いがあるかを、世代間継承の視点から記録し、第3段階では、記録したデータの分析をネイティヴ・スピーカーとおこない、研究全体をまとめていくことを予定している。平成23年度は、研究の第1段階として、これまでの研究のなかで既に採録している言語データを内容により再分類し、AB各500語の語群に編成した。分類は、S.Hino, 1978を参照した。平成23年8月から9月にかけてタイタ語のネイティヴ・スピーカーと面接調査をおこなった。それをもとに、分類した語群の再整理を行った。分類に際し、再検討すべき余地が若干残されているが、その点に関しては、平成24年度の前半で補完していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究から、挨拶や呼びかけに使用する人称代名詞などは、世代を越えて広くタイタ語が使用されていることが分かっている。調査対象とする語彙を限定するために、すでに採録している語彙2000語の中から1000語を抽出し、これを内容により再分類し、語群に編成することに取り掛かった。Parts of the body, Clothing, Food and drink, House, Utensils and tools, Life, Kinship, Community, Locomotionなどの項目ごとに分類し、全体を500語ごとに二つの語群に分けた。平成23年度では、基礎語彙の再分類を中心に行ったため、特に新しく得た知見というものはないが、2000の既採録語彙を再度見直すことができたことは、ここ10年間の研究で不明であった点を明らかにするとともに、語彙間の類縁関係に基づき整理できたことは、今後の研究の展開に照らして有益であったと考えられる。期間と内容は、次のとおりである。平成23年4月~7月:タイタ語の基礎語彙の再分類をおこなった。再分類する際の項目立てが今後の研究内容に直接影響を及ぼすことになるが、今後も再調整しながら進めていくことになる。平成23年8月~9月(10日間):ケニアでの調査研究、現地調査協力者とともに調査対象とする語群と調査方法の確立、予備調査。渡航期間が予定していたよりも十分にとることができなかった。そのため、面接調査の時間が限られてしまったが、メールでのやり取りが可能であることから、不足分はメールを介してできる限り補完するようにした。平成23年10月~平成24年3月:予備調査結果の分析、AB語群内容の確定を目指していたが、まだ、若干の再調整の必要があるので、平成24年度の前半において所期の計画を完遂する考えである。
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Strategy for Future Research Activity |
ケニアの山地農耕民タイタ人の世界に関する文化人類学的研究を継続しておこなってきたが、ここ10年ほどは、タイタ語の語彙、文法などコーパスに関する研究を中心に進めてきた。文化は継承されるとともに、さまざまな要因により変化していく。アフリカ社会の近代化や文化変化が語られる時、キリスト教化や、西洋的物質文化の影響という外部からのインパクトによる変化が強調されることが多いが、表現手段としての言語にあっては、内部からの要因が言語選択に大きな影響を与えていると考えられる。タイタ人は、タイタ語、スワヒリ語、英語の3言語併用の多言語社会に生きているが、彼らがどの言語をどの場面で使うかは、世代により異なることが予想される。また、タイタ語の語彙のうち、どのような語彙が継承され、どのような語彙が言語表現の手段として使用されなくなっているのか、この点は、彼らがタイタという文化をどのようにとらえているかを文化の内側から語っている面であるといえる。これを、性差、年齢差を考慮しながら村落地域であるタイタヒルズと、都市であるナイロビで生活しているタイタ人を対象として比較調査を行う。これにより、語群ごとに2地域においてどの程度の世代間継承がおこなわれているか、その違いを明らかにしていく。言語の継承には個人差が大きいと考えられるが、定量的な統計分析によらずに考察を進めるために、調査対象者は系譜関係で辿ることができる一群の集団とし、そのライフヒストリーに照らして継承の実態を明らかにしていく手法をとる。そこには、タイタ語の研究として一般化できるものとそうでないものが出てくると予想されるが、文化変化を言語を介してとらえる試みとしては、まず、個別の事例を蓄積していくことが必要であると考えられる。これを通して、多言語併用社会における文化変化の分析視点を確立していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の第2段階にあたる平成24年度の研究では、タイタ語の伝統語彙の世代間継承の実態を記録する。話者の性差、年齢差、地域性によりタイタ語の継承にどのような差異が生じているかに関し、伝統語彙のうちのA群を対象として記録していく。平成24年4月~7月:(1)A群前半の内容整理を行う。この間に、平成23年度において終える予定であった語群分類に関する調整を同時に行っていく。平成24年8月~9月:ケニアでの調査研究 タイタヒルズとナイロビで年齢層の異なるタイタ人各3名を対象に現地調査協力者とともに(1)A群前半の記録を行なう。そのために、ケニアでの現地調査を計画している。研究費の旅費をここに充当する。平成24年10月~平成25年2月:(1)A群前半のデータ分析、(2)A群後半の内容整理。この間は、現地調査に基づくデータ分析の期間になるが、適宜、メールでのやり取りを加えながら進めていく。平成25年3月:ケニアでの調査研究を行う。タイタヒルズとナイロビで年齢層の異なるタイタ人各3名を対象に現地調査協力者とともに(2)A群後半の記録を行なう。これが、平成24年度の2回目の現地調査となる。このように平成24年夏と、平成25年春の2回、ケニアでのフィールドワークを予定しており、直接経費の旅費(1,060,000円)、および、人件費・謝金(100,000円)をそれに充当させる。平成23年度からの繰越金(96,646円)は、平成24年度の旅費に充当する。その他、現地での出版物の購入など、日本では入手困難な資料の収集に研究費を使用していく予定である。また、資料は図書に限らず、広く物質文化全般に関して入手可能性を探っていきたい。日本に持ち帰ることの妥当性を検討する必要があるが、デジタル写真などのデータでの収集も視野に入れて、可能である項目に関しては視覚的データの収集に努めていくこととする。
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