2011 Fiscal Year Research-status Report
在英ネパール人移民の多重市民権をめぐる社会運動と理念、生活実践についての研究
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23520998
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
上杉 妙子 専修大学, 文学部, 兼任講師 (90260116)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 多重市民権 / 移民 / グルカ兵 / 在外ネパール人協会 / 民族ビジネス / 英国 / 越境公共圏 / ネパール |
Research Abstract |
1研究の成果 本研究は、在英ネパール人移民の多重市民権をめぐる社会運動と理念、生活実践等に焦点をあてて、越境公共圏ないし市民社会周辺部で構築される多元的にしてオルターナティブな市民権概念について解明することを目的としている。平成23年度は、「研究実施計画」のとおり、英国と国内における面接調査及び文献調査を実施した。 英国出張では、在外ネパール人協会の幹部やその他の移民に面接調査を行い、多重市民権運動の進捗状況や個人の生活史と生活状況、生活戦略、民族ビジネスの越境的な事業展開、二世移民の教育や結婚などについて情報を集めた。そのほか、ネパール人移民が集住する地方都市を訪れ、都市環境を確認し、一部の移民が通うチベット仏教系新興宗教の瞑想道場を訪問した。さらに、他の南アジア系移民研究者と会い、8月に起きた暴動などについて情報交換を行った。大英図書館では文献リストを作成した。この出張により、多重市民権運動の進捗状況とネパール人移民の定着・包摂の過程とその多様性について貴重な情報を収集することができた。 国内では、関連文献や在外ネパール人協会のニュースレター、移民のフェイスブックを閲覧し、情報の取得に努めた。1月には、来日中の在外ネパール人協会の幹部と会い、多重市民権運動の進捗状況やその他の活動、幹部構成などについて追加の情報を得た。2研究成果の発表 日本文化人類学会第45回研究大会において、「軍隊がつくる社会、社会がつくる軍隊―トランスナショナルとナショナル、ローカルの接合と再定義―」と称する分科会を主宰し、発表を行った。宮城学院女子大学キリスト教文化研究所「多民族社会における社会と文化」研究会や東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究(課題名:「『シングル』と家族―縁(えにし)の人類学的研究」)研究会等でも発表を行った。前者の研究会発表は論文として刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、越境公共圏ないし市民社会周辺部で構築される多元的にしてオルターナティブな市民権概念について解明することにある。本研究の初年度である平成23年度には、英国と国内における面接調査や文献研究を行った。その結果、「研究の目的」の達成にとって必要なデータを集めることができた。 申請者はこれまで、英国陸軍の現役・退役グルカ兵を対象とした研究を行ってきた。しかし、平成23年度の英国出張では、在外ネパール人協会の協力により、グルカ兵のみならず、事務弁護士や医師、大学教員、レストラン経営者など、多様なネパール人移民の面接調査も実施し、在英ネパール人移民の全体像を知ることができた。彼らからは、在英ネパール人移民の生活史と生活状況、生活戦略、民族ビジネスの越境的な事業展開、二世移民の教育や結婚などについて聞き取りを行うことができた。これらの情報は、草の根レベルから構成される市民権概念の解明にとって必須の情報である。したがって、英国出張により本研究の目的の達成に向けて、大きな一歩を記すことができたと考える。 さらに、来日中の在外ネパール人協会の広報担当者とも会い、多重市民権運動の進捗状況について、貴重な情報を得ることができた。 研究成果を発表する機会にも恵まれ、2回の学会発表と3回の研究会発表を行うことができた。そのうちの一つの研究会発表をもとにして論文を刊行することもできた。この論文は、在英ネパール人移民の中でも多数派を占める英国陸軍グルカ兵に対する婚姻規制の実態を解明したものである。論文の執筆を通して、英国と在英ネパール人移民の関係の一つの側面を明らかにした。 以上のことを総合的に勘案して、現在までの研究は「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
1.平成24年度 交付申請書では、平成24年度に、在外ネパール人協会の世界大会参加を目的とするネパール出張を行うとした。しかし、平成23年度に来日した在外ネパール人協会の広報担当者からの情報により、世界大会がオーストラリアで開催されることがわかった。また、平成23年度に実施した英国出張により、在英ネパール人移民の中でも多数派を占める退役グルカ兵の英国社会への包摂をめぐり、大きな問題が生じているとの情報も得られた。そのため、当初の計画を変更し、英国もしくはオーストラリアに出張して、面接調査及び参与観察を実施する。なお、オーストラリアでは、在外ネパール人協会の世界大会で研究発表を行い、研究成果の整理と被調査者への成果の還元を図るつもりである。 国内では、研究実施計画の通り、文献資料・情報の収集を行い、先行研究の検討と理論的枠組みの整備、報告書の執筆などにとりくむ。そのほか、日本に居住する在外ネパール人協会の幹部にも面接調査を行い、比較の材料となる情報を収集する。2.平成25年度 平成24年度の計画の変更に伴い、平成25年度の計画も変更する。平成25年度は、ネパールに出張する。在外ネパール人協会の集会の参与観察や関係者を対象とする面接調査を実施し、多重市民権運動の進捗や新憲法における市民権規定、海外に住む移民とネパール国内にとどまる家族・親族・友人との間の交流について情報を集める。そのほか、官報を出版しているLaw Books Management Boardや書店等を訪れて文献資料の収集を実施する。 平成25年度は最終年度であるので、本研究の成果を日本文化人類学会等で発表する。この発表をもとにして、学術論文と市民権に関する単行本の執筆を行う。なお、申請者は、より包括的な多重市民権・国籍研究を発展させるために、平成26年度科学研究費に申請する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、英国もしくはオーストラリアに出張して、面接調査及び参与観察を実施する。そのため、飛行機代や国内交通費などを計上する予定である。オーストラリアでは、在外ネパール人協会の世界大会で研究発表を行う予定である。英語で発表を行うため、英文校閲のための経費も計上する可能性がある。 次に、国内では、研究実施計画の通り、文献資料・情報の収集を行い、先行研究の検討と理論的枠組みの整備、報告書の執筆などにとりくむ。そのため、文献や文具、OA用紙などの物品の購入や、研究資料である写真の現像などのために、研究費を使用する予定である。 そのほかに、国内出張も実施する予定である。まず、平成24年6月には、広島大学で開催される日本文化人類学会第46回研究大会で発表を行う予定である。また、大阪府に在住する在外ネパール人協会の幹部に対して、面接調査を行う予定である。以上の国内出張のための飛行機代などの旅費を計上することも考えている。
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Research Products
(6 results)