2012 Fiscal Year Research-status Report
在英ネパール人移民の多重市民権をめぐる社会運動と理念、生活実践についての研究
Project/Area Number |
23520998
|
Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
上杉 妙子 専修大学, 文学部, 兼任講師 (90260116)
|
Keywords | 英国 / ネパール / 移民 / 市民権 / 多重市民権 / グルカ兵 / 在外ネパール人協会 / 開発援助 |
Research Abstract |
本研究は、越境公共圏ないし市民社会周辺部で構築される多元的にしてオルターナティブな市民権概念のあり方について解明するために、在英ネパール人移民の多重市民権をめぐる社会運動と理念、生活実践等を研究するものである。2年目にあたる平成24年度は、以下に記す通り、データの収集と先行研究についての情報収集を行い、目的達成に向けて大きく前進することができた。 まず、平成25年3月には英国に出張し、多様な在英ネパール人移民と会い、話を聞くことができた。例えば、在外ネパール人協会・国際調整評議会・副会長であり英国陸軍退役グルカ兵でもある、ヒトマン・グルン元大尉からは、協会の多重市民権運動と退役グルカ兵の立場について話をうかがうことができた。また、在外ネパール人協会英国支部の女性フォーラムが開催する行事に参加し、女性会員の市民権についての考えを知ることができた。さらに、グルカ旅団のヒンドゥー・チャプレンが主催するホーム・パーティーに出席し、多様な職業についている在英ネパール人移民から市民権についての考えをうかがうことができた。その他にも国内の関連研究会に参加し、南アジアの政治思想やネパールの政治情勢についての情報を集めた。また、市民権や政治思想などに関する書籍や文献情報の収集にも努めた。 2012年6月には日本文化人類学第46回研究大会で、研究成果発表の一環として、「マーシャル・レイスの身体による境界作業と民軍関係―英軍・グルカ兵の徴募・人員管理政策と自主的通婚規制―」と題する口頭発表を実施した。2012年8月には、オーストラリア・シドニーで開催された在外ネパール人協会・第7回諸地域会議において、"Living Dual Ties: Non-Resident Nepalis’Campaign for Multiple Citizenship Legislation” と題する発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初の計画では、平成23年度と平成24年度の2か年の間に、多重市民権をめぐる在英ネパール人移民の運動と理念、生活戦略についてデータの収集と分析を行うことを予定していた。 これまでの研究の進捗状況について振り返ってみると、まず、在外ネパール人協会成員の協力により、ネパール人移民団体の構成員や支援者などを対象とする面接調査や参与観察を実施することができ、運動の目的と活動内容、構成員とその動機、家族構成、職業、市民権取得状況について、かなりの程度まで明らかにすることができた。ことに、在外ネパール人協会の内部においても、職業や居住国、性別などにより、市民権について異なる複数の考えや立場(女性の立場や退役グルカ兵の立場など)があるとわかったことは、大きな収穫であった。また、文献収集により、移民の市民権に大きな影響を与えると思われる英国・ネパール両国の移民政策と関連法規・条約、国連・欧州連合の動向、移出入の現状など、マクロの政治的・社会的状況についてのデータを得ることができた。 ただし、ネパール語の文献資料(法律や在英ネパール人協会の資料、ネパールの国内法など)の読解と分析はまだ完了していない。そのため、「おおむね順調に進んでいる」とする評価が妥当であると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本研究の最終年度である。過去2か年の蓄積の上に成果を蓄積し、研究の完成を目指す一年としたい。平成25年度には、以下の三つの研究活動を実施する。 第一に、英国・ネパールにおけるさらなるデータの収集である。日程が許すならば、9-10月にネパールで実施される在外ネパール人協会の世界会議に出席し、運動の内容と目的、活動内容、構成員とその動機、家族構成、職業、市民権取得状況などについてデータを集める。平成24年度に初代会長及び現会長と面識を得ることができたので、この2名に対する面接調査も実施する。また、官報を出版している法律書経営委員会(Law Books Management Board)や書店、グルカ記念博物館等を訪れ、資料の収集を実施する。 第二には、収集した資料の検討である。特に、ネパール語資料の読解と分析に努める。 第三には、研究成果の発表である。8月に英国で開催されるIUAES (International Union of Anthropological and Ethnological Sciences, 国際人類学・民族学科学連合)大会において口頭発表を行いたいと考えている。その後、日本語の学術雑誌への投稿に向けた論文執筆を開始する予定である。 なお、これまでの研究により、ネパール人移民の多重市民権運動が、移民の多様性(居住国や職業、性別、民族的背景)や本部・支部の相互関係などにより大きく影響を受けていることがわかった。その結果、在英ネパール人移民にとどまらず、在外ネパール人協会全体を視野に入れた研究が必要であると考えるに至った。しかし、最終年度の一年間でそれを完了することは難しいと考える。そこで、来年度の科学研究費助成事業に申請したいと考えている。本年度の後半はそのための準備も行いたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以上述べた研究計画を実施するためには、英国やネパールへの海外出張を数度にわたり実施する必要がある。今年度は、そのための旅費として70万円程度が必要になると考える。また、文献資料も引き続き収集する予定であるので、物品費として15万円を計上したい。さらに、英語による成果発表を実施するためには、英文校閲料も必要となる。5万円程度を計上することとしたい。
|