2012 Fiscal Year Research-status Report
宗教実践と消費文化の人類学的研究─フィリピン民衆キリスト教の聖具消費と流通
Project/Area Number |
23521002
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
川田 牧人 中京大学, 現代社会学部, 教授 (30260110)
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Keywords | フィリピン / 民衆キリスト教 / 消費 / 聖具 / 文化人類学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、民衆キリスト教世界にみられる「聖具」が宗教的観念を可視化させる作用をとらえ、教義・教理が消費や流通の側面から理解・受容される様態を考究することである。この目的に達するため、(1)モノとしての聖具に関する調査、(2)都市祭礼におけるパフォーマンスと形象化に関する調査、(3)宗教知識のテキスト化に関する調査、の三つを設定した。第2年度にあたる平成24年には、すでに開始した(1)、(2)に関する継続調査とともに、(3)についても調査研究に着手した。(1)に関しては聖具の消費の側面として,家庭聖像の所有と祭祀に関するサーヴェイ調査を実施し、各家庭で聖像がどのように宗教的に消費されているかを把握した。また生産の側面として、セブ市に聖像を供給する一大生産地であるタリサイ市の彫像師の調査を実施した。タリサイ市にはベンタイン家とアラネタ家という二大家系が聖像の製作技術を有し、その弟子筋にあたる彫像師は現在も活躍しているが、そのいっぽうで、第1年度にとりあげた流通業者すなわち製造販売業者がタリサイ市に仕入れに行った際、彼らの製作技術を見習って、それを模倣できるほど参入障壁は低い。このことが聖像の大量生産を支えていることが明らかになった。また(2)では、教会所属のオリジナルの聖像だけが正統づけられるのでなく、(1)の調査で明らかになった大量生産によって無限にレプリカが増殖しても儀礼的態度には遜色がないことが確認された。さらに(3)の調査を開始したことによって、レプリカであってもオリジナルとかわらず熱心な消費の対象となる根拠として、聖像との個別的関係や奇蹟譚によって個人的にカスタマイズされる側面について着眼することができた。個別的物語化によるカスタマイズの背景には、奇蹟譚のステレオタイプとして、教会を発信源とするテキスト化された宗教知識が背景にあるという予測も得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要にも記したとおり、本研究は、(1)モノとしての聖具に関する調査、(2)都市祭礼におけるパフォーマンスと形象化に関する調査、(3)宗教知識のテキスト化に関する調査、という三つの項目を設定した。第2年度の調査の進展により、交付申請書に記載した「これらの相互関係」がかなり明確に捉えられるようになり、調査研究2年目として計画通り進展したとの感触を得た。すなわち、(1)モノとしての聖具について、生産、流通、消費の各側面において、稀少な真正品に価値をおくのではなく大量生産による模倣品の受容が前提となった生産・流通・消費のシステムが成立している。そのような大量消費の主要な場となるのが(2)都市祭礼におけるパフォーマンスと形象化であり、ここにおいては無数のレプリカが個々の所有者がそれぞれの文脈にしたがって聖像の宗教的消費を実践することができる。さらにそのような実践を下支えしているのが(3)宗教知識のテキスト化である。個々の聖像は往々にして、そのパーソナルな語りにおいて、所有者や家族と特別な関係があることが表現される。聖像をめぐる不思議な話(奇蹟譚)は、そのパーソナルな関係を表現する語りであるが、(2)において聖像がモノとして個々人のお気に入りに装飾されるのと同様に、(3)においては知識の面でカスタマイズされるのである。その一方でこれらの語りにはプロットや構成要素に共通性が見られるのではないか、そしてその源泉には教会を発信源とする奇蹟譚などのある種のステレオタイプがあるのではないか、といった仮説を得るところまで研究が進展した。このような知見をもとに、最終年度では、(1)~(3)の調査項目の相互関連をさらに深めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2年間でおおむね予定通り研究を進めてきているので、基本的には当初の計画通りの調査研究を展開したい。(1)にあっては聖具消費の最終段階として、使い古された聖具の処分方法という課題があったが、これまでの調査では意図的な「処分」が確認されていないので、他人への譲渡や教会への寄付という側面から明らかにしていきたい。(2)のパフォーマンスとビジュアル化に関しては、可視化された聖具の形象が他へ及ぼす影響、とくに同じ聖像を信奉する他地域との関連性などをも考慮した調査を実施する。(3)の宗教知識のテキスト化については、まずテキスト化された宗教知識を資料化する調査研究を継続する。当初の予測では、テキスト化された小冊子自体が聖具として用いられる側面や、教区教会の由来といった歴史的知識、民間治療にもちいられる薬草や治療法などに関する民間科学的知識まで焦点があてられているので、聖像の奇蹟譚だけにとどまらず、これら多様なテキスト資料を対象とする。そして、それらのテキスト化された宗教知識が、個々人の状況に応じてカスタマイズされる側面と同時に、共通性を持つ側面についても注視し、そこからフィリピン民衆キリスト教における宗教的実践・知識の消費を理論的に考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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