2011 Fiscal Year Research-status Report
韓国、米国、日本在住中国朝鮮族のネットワーク化に関する文化人類学的研究
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23521005
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
原尻 英樹 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70231537)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | ネットワーク化 |
Research Abstract |
H23年度は、当初の計画どおり、アメリカ在住中国朝鮮族のフィールドワークを行なった。しかしながら、最初にニューヨークで調査したところ、8年前にロサンゼルスで調査した際にはなかった状況がわかることになり、時間の経過とともに、アメリカ在住中国朝鮮族の生活のやり方が変容した可能性があるかもしれないという判断のもと、ロサンゼルスでの調査も遂行した。結果的に朝鮮族が集中していると見られる、ニューヨークとロサンゼルスで調査をしたことで、様々な知見を入手することができた。まず、ニューヨークにおいては、府警が主因で韓国系の住民が他州にかなりの数出てしまい、これに伴い、朝鮮族にも同様の動きが見られた。しかしながら、ロサンゼルスにおいては、8年前と同様に定住化が進行している。また、ニューヨークにおける亡命申請による永住権獲得率は80%になっているが、ロサンゼルスにおいては25%とその差は著しい。しかしながら、ロサンゼルス在住の中国朝鮮族の大半はこれを知らない。朝鮮族の場合は集団化ではなく、パーソナルネットワークによる連携でつながっており、結果として、情報にムラがあることがわかる。 両地域における共通点は、8年前は、ほとんどの朝鮮族が密航者であって、アメリカにおいて合法的に生活できる法的地位ではなかったが、現在は亡命申請を経て、永住権を得ている者が増え、また、留学生、旅行者(現在は旅行ビザが出されるようになった)も増えている。韓国系住民、アメリカ人一般からアメリカでの適応戦略を学び、急速に定着化していっていることがわかる。今後、永住者が増えていくことが予想される。実際のところ、一人の永住者がいれば、その家族の呼び寄せ等で永住者の人口は何倍にも膨れ上がることになるからである。 アメリカ在住の朝鮮族についての基礎的なデータは今年度で十分に収集された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
私は本科研費での調査・研究の前年、所属大学からの助成を得て、韓国在住中国朝鮮族のフィールドワークを遂行したので、13万人をこえる韓国国籍を取得した朝鮮族と、アメリカ在住朝鮮族の比較を出来ることになった。アメリカには相当な金がなければ、通常渡ることはできないので、両者の経済的基盤の違いもあるが、いわば裸一貫で外国に出ていくということは共通点である。この両者とは別に日本在住朝鮮族(推定では、7万人程度在住していると考えられており、その大半は留学生である)についても調査してきたので、いわばこれら三者についての比較の観点をもって、各々の場所で生活する朝鮮族の生活のあり方について検討できた。 これによれば、朝鮮族には、「文明」志向があり、アメリカを頂点にして、その下に日本、その下に韓国が位置づけられている。外国への移動は、この基本図式を前提に行なわれており、中国に戻る以外は、例えば、アメリカにいる朝鮮族が韓国に渡るといったケースはあまりない。つまり、方向性は一方通行になっている。ところが、ネットワークは、この移動とは別であり、情報入手、インターネットを使った情報交換にいたるまで、世界中の朝鮮族と関係をもとうとしている。そして、もともとの朝鮮族でなくとも、このネットワークには参入可能であり、朝鮮族のネットワークには、その友人、知人、配偶者、その他の、中国漢族、韓国人、日本人等が関わっている。これはこれまで当然視されてきたエスニシティ概念の揺らぎを示しており、まだ、データ中心ではあるが、これまでのエスニシティ研究に新たな理論的な地平を提供できる、ポスト近代における人の移動とそれに伴うネットワーク形成の観点から、「共同体」形成について考察できると考えられる。 データ収集については予想以上の達成度になっており、今後これ継続しつつ、分析の理論的枠組みについても検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
既に「研究実績の概要」で言及したように、初年度においてはロサンゼルスでのフィールドワークをするという、当初の予定とは異なるスケジュールを入れた。結果として、フィールドワークによるデータ収集で精一杯となってしまい、その他の項目における予算が難しくなってしまった。また、これに伴い、「次年度使用額」が生じている。よって、H24年度においては、これまでのフィールドワークによるデータ収集もすすめながら、エスニシティ関連等の理論的なことを論じた著作も購入し、理論研究も推進することにする。また、朝鮮族に関連する文献データも収集する。さらに、朝鮮族のネットワークにはITが関係しており、私自らもEメールのみならず、フェイスブックを通して朝鮮族のネットワークに参加しているが、私自らの情報発信のための、ホームページ作成、最先端のIT関係の機器の充実が必要になる。これらも重要な予算項目になる。 また、H24-H25にかけては、サイパン、日本(東京と大阪中心)、青島(中国のチンタオ)でのフィールドワークを予定している。サイパンについては、アメリカ在住朝鮮族からの情報と紹介があり、90年代に韓国企業は裁縫工場をサイパンに建て、それに朝鮮族が労働者として7000名程度働いていた。この工場は現在なくなっているが、現在でも500人程度の朝鮮族がサイパンに在住している。これらの人々のフィールドワークを通して、海外在住への過程について具体的データ収集できると考えられる。中国本土のフィールドは、海外在住朝鮮族との比較の観点から行う予定であるが、このような観点から調査を遂行した例はこれまでなく、実りある調査が期待できるといえよう。当然のことながら、中国語は今年度までにある程度のレベルに達成する予定であり、H25年のフィールドワークには十分間に合うといえよう。フィールドワークとしては以上を予定している
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年-H25年においてもフィールドワークは、中国国内では義烏(国際商貿城(福田市場)、中国小商品城、賓王市場の三つの大規模日用品の卸売市場で、中国でも指折りの物流基地、韓国人及び朝鮮族も多数居住している、次年度青島でのフィールドワークのための予備調査の意味もある)、サイパン、日本(東京、大阪)、青島(チンタオ)で行なう予定である。これまでの先行研究が希薄であり、文字化されたデータもあまりないので、フィールドワークによるデータが重要である。よって、科研費のうち、このフィールドワークは予算の上で、かなりの額を占めることになる。また、文献資料については、所属大学での購入も可能なので、予算的には、フィールドワークで必要な予算はすべてそちらにまわす予定である。 一応、以上が予算使用の基本原則である。これに基づいて、その他の予算についても考えると、ホームページ作成、IT関連、謝金、謝礼、これらにも予算が必要になる。ホームページは研究についての情報発信にもなるが、朝鮮族のウェブ上のコミュニティでの関係づけにはなくてはならないコミュニケーション手段にもなっている。これで、予算的な余裕があれば、朝鮮族関連の著作等、エスニシティ及びグローバリゼーション関連の理論的な著作等の購入も考えている。これは、昨年できなかったことでもあるので、十分に念頭に置いている。
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Research Products
(5 results)