2012 Fiscal Year Research-status Report
韓国、米国、日本在住中国朝鮮族のネットワーク化に関する文化人類学的研究
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23521005
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
原尻 英樹 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70231537)
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Keywords | 移動 / 生活戦略 / ネットワーク |
Research Abstract |
平成24年度は、次の場所における中国朝鮮族のフィールドワークを行なった:(1)東京、(2)韓国全羅北道の全州近郊の観光地、(3)韓国鬱陵島及びポハン、(4)中国義烏及び上海。日本在住朝鮮族は留学生中心であり、それに加えて留学後そのまま日本に居住して、自営業か会社勤務をしている人々及びその家族になる。韓国在住朝鮮族の大半には高学歴者が限定されており、肉体労働を中心とした労働者で占められていることとは対照的である。しかしながら、現在の生活のあり方を今後の生活戦略には共通点もあり、例えば、日本在住者の場合でも、今は日本であるが、そのまま日本滞在を続けるかどうかになると、事情によってそれは変わっていくと考えており、それは韓国在住者も同様になっている。また、朝鮮族間の情報交換もアナログ的なものに加え、インターネットを利用したものまで広がっており、これが生活戦略と密接に関わり、その情報をもとにして、別の場所への移動も容易になっている。 韓国においてはソウル及びその近郊に人口が集中しているが、過疎化が進んでいる全羅北道のキョッポには、働き手が多くなく、朝鮮族を含め漢族、モンゴル人等の外国人が観光地の食堂等で働いている。しかしながら、鬱陵島などには遠距離ということもあり、朝鮮族は「嫁入り」以外ではほとんどいない。また、工場地帯ポハンは大規模外国人労働者受け入れており、その中には個人労働目的の朝鮮族は含まれていない。字数の関係でサイパン、義烏については詳しく述べられないが、機会を獲得するためにそこにいることと、今後は情報によってどこにでも移動するという点は、韓国、日本在住の中国朝鮮族と同様の傾向になっている。今年度までで、アメリカ、日本、韓国本土についてのデータ収集は一応終了なので、ほぼ基本データはそろったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
韓国、アメリカ、日本における中国朝鮮族の生活実態と今後の生活戦略については、人口的に多数を占めているところを中心にフィールドワークを行ない、これまでに報告されていないデータも含めて収集することができた。また、韓国については人口が密集していないところの調査も行い、都市部とは異なる条件下でどのような生活戦略をもっているのかのデータも収集できた。 日本の朝鮮族は基本的に高学歴であるので、韓国の朝鮮族と比べると生活戦略上様々な選択肢があると考えられたが、実際には、朝鮮族間の情報交換と、より良い生活を目指す、一種「文明志向」が働いている点は同じであることが確認された。 さらに、「文明志向」が明確に出ているのがサイパンの朝鮮族であり、アメリカ本土への進出をねらって、「今のところはサイパン」であって、もし、それがかなわないようならば、中国帰国という形態になっている。また、サイパン及びアメリカの朝鮮族は特定のムラあるいは地域の出身者がある程度、鎖型移動で渡航していることがわかったので、中国国内の調査においてこの点が重要であることも判明した。デジタル化されたことも活用されているが、基本的にはこのようなフェイストゥフェイスの関係が朝鮮族にとっては重要であるからである。 義烏においては朝鮮族の組織が成立しているのではないが、上記のフェイストゥフェイスレベルで関係をもとにしながら、関係をつくっている。しかも、韓国人のやり方から学び自分たちの人間関係づくりにも応用しており、中国内部の朝鮮族の生活戦略を知る上では、これは重要だと考えられる。平成25年度の中国青島調査においてこの知見は活かせると考えられる。 朝鮮族のネットワーク化は、グローバリゼーションの進行に伴い、一方においては「帝国」が形成され、人々の生活が圧迫されているが、他方においてはそれへの対抗も考えられることの実例と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度からは中国国内の朝鮮族のフィールドワークになる。データ的には、日本、韓国、アメリカの朝鮮族ついてはほぼ終了したことになる。平成25年度からの調査は、平成26年9月から一年間中国延辺に滞在予定なので、時間的にも十分であると考えられる。今年、来年でデータ的にはほぼ十分なそれになると考えられる。 よって、平成25年からは、データ収集だけでなく、研究方法論の検討も同時におこなうことにする。既に、歴史文献調査も行っており、今日の朝鮮族の生活及びその戦略は日本による満州時代にその基礎が形成されたといえる。文献データ的にこれを立証するとともに、今日の世界において朝鮮族のネットワーク化の意味を考える必要がある。まず、米韓間のFTA、それに日本も加入予定のTPPを検討すると、アメリカに拠点をおいている、軍事も含めた多様な活動を続けている多国籍企業がその活動のために、アメリカという国民国家をコントロールしていることに気づかされる。グローバリゼーションを基本的に規定しているのはこれらの企業活動であり、それは最近の社会科学によれば、「帝国」による支配に依っていると考えられる。 この「帝国」とグローバリゼーションとの関係を、方法的に明らかにして、そのなかでパーソナル・ネットワークで生き残ろうとしている朝鮮族の活動の意味について考える。さらに、朝鮮族の人間関係は、いわば前近代的な身体を媒介とした、身体の共有で成り立っており、これが一種ポストモダン的な戦略の基礎になっている。これをデータに基づいて、身体論として論じ、近代的な発想から離れた前近代的身体の意味について明らかにしたい。さらに、朝鮮族のネットワークには近代の所産である国民、民族をこえた関係が含まれており、前近代的身体をポストモダン的関係についても明らかにしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、中国青島と韓国済州島のフィールドワークを行なう。この予算は400000円程度となる。 このフィールドワークと並行して、文献研究を遂行し、「今後の研究の推進方策」で言及しているように、「帝国」とグローバリゼーションとの関係、前近代的身体の身体論、身体とコミュニティー、身体とポストモダンにティ、これらに関する文献研究を遂行する。金額的には200000円程度を予定している。これらのテーマについての文献は社会科学の最先端の領域に属するので、かなりのエネルギーと時間が必要になる。よって、今年度は夏期においてのみフィールドワークをして、春期は分研究を中心にすることにする。 また、事前に継続してきた中国語の学習もある程度の水準に達しているので、上記以外の中国語の文献についてもできる限り収集する予定である。
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Research Products
(1 results)