2013 Fiscal Year Research-status Report
韓国、米国、日本在住中国朝鮮族のネットワーク化に関する文化人類学的研究
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23521005
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
原尻 英樹 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70231537)
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Keywords | ネットワーク化 / 出身地域 / 青島 / 山東半島 / 職業紹介 |
Research Abstract |
平成25年度は、中国の青島(チンタオ)における朝鮮族の調査を一か月かけて行った。 もともとこの地青島には朝鮮族はほとんど居住していなかったが、中国・韓国間の国交が始まり、朝鮮族の韓国への出稼ぎ等が一般化するにつれて、韓国から最も近い山東半島にあり、しかも、温暖で中国東北よりも住みやすい気候ということもあって、朝鮮族の居住者が激増していった。中国の「戸籍」制度によって、郡部から都市部への移動は原則的に禁止されている関係があるので、実数把握は事実上できないが、青島およびその近郊をいれると、20万から30万程度の朝鮮族は居住していると考えられる。 今回の調査では、朝鮮族集住地区にフォーカスを絞り、青島においてどのような職業生活をおくっているのかについて調査した。先行研究は数えるほどしかなく、一応参考にしたが、現実とそれはかなりの違いがみられた。まず、新来の朝鮮族の場合、知り合い等の紹介がない場合、朝鮮族経営の職業紹介所に向かう。この紹介所の経営者によると、いまは大した収入にはなっていないが、数年前ならば、紹介料で相当の利益があったという。紹介のツテは、朝鮮族と韓国人になっている。現在は韓国人からの求人は減っており、朝鮮族経営の工場、食堂、その他に紹介をしている。 アメリカ、韓国でも同様の傾向があるが、朝鮮族出身地域によるネットワーク化が進行しており、最初は職業紹介所の紹介が一般的になっているが、次第に、出身地域の人間間のコミュニケーションが多くなり、出身地域によるネットワークの形成につながっている。来年度は、実際のその出身地での調査をすることで、このネットワーク化のもとになっている文化と歴史について明らかにする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの調査によって、アメリカ、韓国、日本へ出て行った人々の関わり方についての基本的なデータを蓄積した。これに中国国内では義烏と青島が付け加わった。国内外移動の移動先についてのデータをこれで集めたことになる。ネットワークの実態はこれによって把握できるし、かつ、スポーツ等の身体を介したコミュニケーションが、すべてのところで観察された。これは、朝鮮の伝統文化をベースにして、朝鮮族村の生活の中で形成されていったと考えられる。 いずれに生活する朝鮮族でも、必ず催しているのが、まず、運動会であり、そして、サッカー、バレーボールなどのスポーツになっている。これについては私自身もその活動に参加して、人々のかかわり方について参与観察した。スポーツ以外では、ハイキング、ピクニック、花見、これらは朝鮮の伝統文化では野遊会に類する活動になっている。いずれにしても、朝鮮族にとって、身体を媒介したお互いのコミュニケーションは、あまりにも当たり前であって、それによってネットワークを形成するときの契機になっている。 これまでの調査・研究によってこのような知見を得ることができた。学問的にいえば、ネットワーク化と身体の関係の研究になる。これまでのエスニシティ研究が、特定の国民国家内の「民族」、そして特定の「民族」による集団化を追及してきた側面があるが、朝鮮族のネットワーク化研究によって、朝鮮族中心であるが、国民、民族を相対化する、別のレベルでのネットワーク化が観察可能になり、そして、そのネットワーク化には、歴史的に形成されてきた身体が関わっていることが分かった。これによって、今後の研究の方向性がある程度決められたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年9月から1年間吉林に滞在予定になっている。これまでの研究成果によって、身体によるコミュニケーションが重要であることが判明しているので、朝鮮族の大半が生活をしていた、朝鮮族村において、老人たちを中心として、どのような生活を送っていたのかを調査する。幸いにして、当時の写真等がおのおのの朝鮮族村には残されており、写真を見ながら、調査をすれば、身体を含めて、どのようなコミュニケーションが形成されていたのかを調査できると考えられる。 この場合の調査のフォーカスは、通常の伝統的な朝鮮人共同体であれば、契(ケー)が、村の人間関係の要になっている。果たして、契があったのかどうか、あったならば、どのような契であったのかを調査する。この伝統的な人間関係の作り方に、行政レベルの人間関係がどのように関わっていたのかが次の課題になる。これによって、「食べるための関係」のあり方が判明するといえよう。 次に、朝鮮族村で人々が最も記憶に残っているのが、運動会である。この運動会においてどのように人々が関わり、どのような身体の使い方をしていたのかを調査する。朝鮮族はジャポニカ米の栽培によって、利益をあげていたので、水田耕作農業における身体の使い方と、ここでの身体の使い方について、比較してデータを集める。農業における身体をスポーツとは異なっているので、もともとは農作業的な身体だったのが、学校教育の影響によって変容していったことが予想される。そして、現在の外に出て行っている朝鮮族は、スポーツ的身体によってコミュニケーションを展開している。但し、身体がそのようになっていても、もともとの農業的な身体によるコミュニケーションの形成はある程度その原型をとどめている可能性もあろう。以上のことについて、今年度は調査する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献等は勤務先の図書館にほとんど置かれており、そのための出費がひかえられた。 2013年度未使用額は、勤務先にない図書等の購入を計画している。また、朝鮮族についての基礎資料、その資料を集めるための謝金、そしてネットワーク化についての理論的な研究著作、これら等について使う予定である。
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