2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23530002
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
澤田 裕治 山形大学, 人文学部, 教授 (00261686)
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Keywords | 中世都市 / ロンドン / コモン・ロー / 国王裁判所 / 都市法 / 慣習法 / イングランド / 官僚制 |
Research Abstract |
この研究から得られた知見は、以下の諸点にまとめられる。 第1に、中世都市ロンドンの裁判所記録の研究は、国王裁判所とマナー裁判所の研究に比し、これまで無視されてきた。その主な原因は残存記録の乏しさにあった。研究は、シェリフ裁判所記録のほぼ完全な喪失と一連の市長裁判所記録の主要部の喪失を考慮しなければならない。第2に、ポール・ブランドの研究が示すように、イングランドは、西ヨーロッパの中世王国の中でユニークだった。『ブラクトン』の時代までに、国王裁判所は他の裁判所を圧倒し、すべての裁判管轄権は世俗的事項では国王に属し、それ以外の世俗の裁判管轄権は国王による「授権」の結果であるとする「授権」優位体制を成立させた。12世紀の最後の四半世紀にイングランドは、西ヨーロッパで初めて、広範な創造的な裁判管轄権をもち、国王裁判官によって準官僚制的に実施される全国的な裁判所制度を発展させ、裁判と立法により、国全体に適用できる単一の全国的な慣習法であるコモン・ローを生み出した。第3に、国王裁判所とロンドンの裁判所の間には密接な相互作用があったが、特に後者から前者への影響は、この国王裁判所の「授権」優位体制の枠組みの中で展開された。ロンドンの自律性の特権的な享受は、この体制の枠内での相対的な自律性であった。 第4に、コモン・ローは、都市法等の地方慣習に頑強に敵対的ではなく、その持続・実施を許すほど十分に柔軟であった。地方慣習は、本質的にコモン・ローの補充物であって、その代替物ではなかった。第5に、ダニエル・クラーマンが指摘するように、最も注目すべきは、ロンドンの裁判所の実際がコモン・ローの革新(占有アサイズ、土地明渡令状、黒死病後の引受訴訟の拡大、英語の訴答、書面訴答、及び訴訟申立手続の拡大等)に対するモデルを提供した可能性である。しかし、借用か独立の革新かを確定するのは難しい。
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