2011 Fiscal Year Research-status Report
国民国家・市民・法の同時的形成と近代法の基礎概念にかんする歴史的研究
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23530012
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
波多野 敏 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (70218486)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | フランス革命 / フランス法 / 国民国家 / 市民権 |
Research Abstract |
本年度は、主として1789年5月の3部会の開会から国民議会の設置、人権宣言を経て、新しい国家における王権の位置づけにかんする1789年10月頃までの三部会および国民議会における議論を中心に検討し、また国立文書館およびバ・ラン県文書館で調査を行うことができた。また、これと併行して、公教育制度が市民形成に大きな関わりを持っていたが、それだけでなく、公的扶助制度や刑務所システムの構想も市民たり得ない者をいかに市民にするかという点で、新しい国民国家における市民形成と密接な関連を持っていることを検討した。こうして検討の結果、三部会開催直後は諸々の制度の歴史的な正当性が問題となっていたのに対し、国民議会の形成・人権宣言・王権にかんする議論と議会での審議が進むにつて、アンシャン・レジーム的な社団国家的観念が、あらたに主権者たる国民の意思によって形成・正当化される国民国家的観念によって取って代わられていくプロセスを明らかにすることができた。また、こうした国民国家の主権者たる市民というものをどうとらえるかという議論もまた、この国民国家的な観念が前面に出てくると同時に並行していろいろな形で議論されている。そこでは主権者としての国民の意思を形成する基盤として、市民一人一人が合理的な意思を持つ主体である必要があり、そのために諸々の条件が考えられていることがわかる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度には、議会の議論を中心にして、(1)革命によって社団国家が解体され、国民国家が形成されてゆくプロセスを、理論的制度的側面から明らかにすること、および(2)新たな国家の主権者たる市民には、自律した自由な意思を持つことが求められることを明らかにする予定であったが、(1)についてはほぼ予定通り検討を進めることができた。(2)については、公的扶助制度を通した合理的な市民形成という点について、一定程度検討を進めることができた。しかしながら、市民形成には公教育制度や刑務所システムなど公的扶助制度以外のシステムも深く関わっているおり、公的扶助制度の検討のみでは、本研究の課題である市民形成の問題を明らかにするには不十分である。公的扶助制度のみならず、刑務所システムや公教育制度といった諸制度が国民国家の主権者たり得る合理的意思を持った市民の形成とどのように関わっていくかという点について、全般的な検討は次年度以降の検討課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度以降、引き続き議会の議論を中心に国民国家概念・市民概念・法概念についての検討を進めてゆく予定である。この際、最も重要な資料は議会議事録であるが、議会の議論を理解するためには、一方で、より体系的な当時の政治家の著作を検討する必要があり、他方で、諸制度の具体的なあり方を視野に入れつつ検討を進めてゆく必要がある。このために、今年度は、議会議事録の検討を中心としながら、当時の政治家の著作の検討と、具体的な制度にかんする議論や国立文書館や各地の文書館に残されている手稿の検討も行う予定である。また、2011年度の検討結果については、すでに一部論文の形で発表されているが、残りの部分についても、一部は2012年度中に論文等の形で公刊する予定である。また、各種研究会で口頭報告を行い、様々な観点からの批判もうけながら研究を進めてゆくことを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
議会議事録は日本で印刷資料の閲覧が可能であり、また政治家の著作については、一定程度はすでに収集されているし、また未収の資料も多くはフランス国立図書館などからPDFファイルの形でダウンロードが可能である。印刷資料およびPDFファイルについても、一定程度の資料をさらに収集・検討する必要はあるが、その収集および調査・検討は本研究の重要な課題であるとはいえ、これについての費用はそれほど多くは必要とはならない。しかしながら、国立文書館および各地方の文書館に保管されている資料については現地の文書館へ行って実際の資料を閲覧する必要があるので、このための旅費が一定程度必要である。今後の研究費の支出については、文書館に保管された資料の検討のための旅費を中心に、研究費の支出を考えてゆきたい。
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