2013 Fiscal Year Research-status Report
国民国家・市民・法の同時的形成と近代法の基礎概念にかんする歴史的研究
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23530012
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
波多野 敏 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (70218486)
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Keywords | 法制史 / 西洋法制史 / フランス法史 / フランス革命 / 一般意思 / 市民権 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度の研究において明らかにされた「法」の制定手続や、そこに表われた「国民の意思」という点についての革命期の考え方について改めて整理し、論文を発表した。 その後の研究としては、1789年の人権宣言に見える「一般意思の表明としての法」という観念を理解するために、ルソーやシェイエス、ムニエらの著作の検討をおこなった。「一般意思」というルソーの観念は、法がすべての人の意思を基に形成されるという側面と、法の規制する問題はすべての人に同じように関わる問題でなければならないという側面がある。前者の側面については、これまでもルソーの人民主権論的な理解の中でしばしば言及されてきたことであるが、法の対象の一般性と言うことはこれまで十分に議論されてきたものではない。すべての人の現実の意思を基にした決定が必ず正しい一般意思に到達するわけではなく、これは誤り得る可能性のある全体意思でしかない。正しい決定に至るためには、個別的利益の排除し、一般性な対象について全体利益を志向しながら決定することが要請されるが、この点は従来の人民主権論では必ずしも重要視されてこなかった点である。革命期の人権宣言では、「法は処罰するにせよ、保護を与えるにせよすべての人に同一でなければならない」という文言が見られるが、これは単に法の下の平等と言うだけでなく、法が正しい一般意思の表明であるための要件である。 こうしたルソー的な一般意思の表明たる法を制定することは現実にはきわめて困難であるが、革命期の市民権論はこうしたルソー的な観念を基礎にしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度ごとのフランスにおける資料調査、収集もほぼ予定通り進めることができている。 成果についても、一部は研究会などで報告し、さらに論文の形で刊行している。 これまでのところ、研究計画に大きな支障を来すような事由は発生しておらず、研究はほぼ予定通り進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
一般意思としての法の形成に関わる市民の資格をどのように考え、またこうした資格を持った市民をどのように形成してゆくかと言うことが革命期の大きな課題となっているが、26年度は、ルソー的な一般意思論をもとに現実の制度をどのように構築して行ったかと言うことが問題となる。26年度は、革命期の市民権論について、議会の議論を検討するとともに、こうした議論で中心的な役割を果たしたシェイエスやコンドルセ、ロベスピエールらの著作を検討する。 とくにシェイエスについては、国立文書館に残されている手稿の調査を行いたいと考えている。 これによって、革命期の市民権論について考察を進め、ここまでの研究成果とともに最終年度の成果としてまとめてゆく。
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