2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530018
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
小柳 春一郎 獨協大学, 法学部, 教授 (00153685)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 土地境界 / 日仏不動産法 / 境界確定 / 地籍 |
Research Abstract |
本研究は,日本の境界法理においては,筆界重視が著しく,境界確定訴訟が筆界を明らかにし,地籍調査も地租改正にさかのぼる原始筆界の復興を目指し,筆界特定手続もまた,筆界の現地での位置について登記官が認識を示す制度としており,所有権界との有機的関連がないことが問題にされる現状に鑑み,フランス法を手がかりにしながら,日本法においても土地所有権界を中心とした法理への転換の必要性を指摘するものである。具体的には,フランスの境界確定訴訟(action en bornage)は土地所有権界を明らかにするものであること,ナポレオン地籍に始まるフランスの地籍(cadastre)は,税の根拠となる点が重要であるが,土地所有権界を明らかにすることが重要な役割とされていることを解明して,その法理の具体的あり方を究明し,また,なぜ日本の法理が生まれてきたかを解明する。 初年度である平成23 年度は,主としてフランス地籍制度の検討を行い,一方では文献調査により,フランス地籍制度の基本概念を明らかにすることに力を注いだ。特に,ナポレオン地籍の実際について,エクスアンプロバンスの県公文書館において,調査を行った。同文書館は,非常に対応がよく,本来閲覧に制限のある地籍図,地籍台帳等をすべて閲覧することができた。ネット・文献等と異なり,実際に地図等を手にすることが出来たのは大きな収穫であった。とりわけ,日本では,いわゆる地番表示がまずなされ,その後に住居表示が行われていったのに対して,フランスでは,ナポレオン地籍図当時にすでに住所が地番と別個に存在していたことが印象的である。また,フランスの近年の物権法改正草案(ペリネ=マルケ草案)について,境界確定訴訟に関連した7条もの条文が規定されたことに鑑み,その草案の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,フランスの境界確定法理及び地籍法理の解明を重要な目的としているが,境界確定では,2008年にアンリ・カピタン協会が提出したフランス民法物権法改正準備草案(注釈を含めて,Proposition de l’association Henri Capitant pour une reforme du droit des biens, sous la direction de Hugues Perinet-Marquet, 2009)では,測量専門家が提案した境界確定案を承諾しない土地所有者は訴訟を提起しない限りそれを受け入れたものと見なされるとの案が提案されたことに鑑み,すでに2010年9月27,28日の両日にパリ第2大学において,日仏不動産セミナーを開催し,筆者は,境界確定について報告を担当したが,これに関連した仏文論文集への寄稿を行った。すでに24年3月末に校正ゲラができており,24年度中に公刊される。 また,地籍法理については,実際の地籍簿を元にした検討が可能になった点が大きな意味を持ち,これまで文献のみでは理解しがたかった点が相当に理解が進んだ。また,地籍に関連して近年公刊された裁判例の収集も進んできたため,これについての分析も可能になる。こうして本研究の基本的柱であるフランス法の解明が大きく進んだことが重要である。 また,日本の地籍法理・境界確定法理の解明に関しては,明治時代・大正初期の公刊裁判例及び実務家の論文を収集することが出来た。これは,明治民法・裁判所構成法を前提としながら,境界確定訴訟と所有権確認訴訟とがともに所有権に関わるとすると,訴訟物が重複するのではないかとの疑問が裁判官により登場していたことが明らかになる。以上の点からして,研究は概ね順調に進展していると評価しうる(なお,本報告書のフランス語アクサンは文字コードへの配慮から省略した)。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,前年度に行ったフランス境界確定制度・地籍制度についての文献調査を継続するのみならず,フランスの境界確定における地籍の意義及び地籍調査における土地所有者の同意・不服申立てがどのように処理されているかについて調査を行う。地籍再測量においては,日本と異なり,単に筆界を復興というよりも,現実の所有権界を明らかにすることを目指していること,委員会形式の判定組織を設けていること(ただし,私法的効力は制限があり,所有権紛争があった場合には,それのみで所有権界が定まるわけではない。),土地所有者による不服申立ては,不服の者が境界確定訴訟を提起することを求めていることなどを解明する。この点は,日本の地籍制度がいわば所有権との分離を前提とし,しかも,いわゆる「筆界の固定性」を重視して,所有権界との不一致を特に問題にしていないのに対して,フランスの地籍制度は,一応所有権と分離しつつ,所有権境界と一致させようとする努力がある点を明らかにする点で重要なものである。 また,日本の境界確定法理・地籍法理の解明に関連しては,平成24年度の新たな課題として,日本の地籍制度に重要な意義を持つ,昭和26年の国土調査法制定過程の解明がある。これについては,本年4月に東京大学法学部附属近代日本法政資料センター中に議会提出以前の立法過程を明らかにする重要な資料を発見した。これについて,マイクロフィルム撮影,複写引き伸ばし等を行った上で,資料の分析に進む予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費使用計画において重要な第1の部分は,フランス境界確定法理・地籍法理の関連した文献購入である。すでに,前年度において,19世紀文献を中心にして主要な文献の購入は終了しているが,しかし,とりわけ境界確定に関連して大きな役割を果たした治安判事関連文献の収集が残っている。また,民事紛争に関連した訴状等のいわゆるひな形集の収集などが必要である。 研究費使用計画の第2の重要部分は,フランス境界確定法理・地籍法理解明のための海外調査旅費である。すでに前年度の調査において地籍簿を実際に閲覧し,調査することで従来の文献調査の結果との突き合わせを行なって相当の進展を見ているが,なおこの点を継続する必要がある。また,本年9月までには現在校正中の仏文論文が刊行される予定であり,さらに,日仏物権法セミナーが9月にパリ大学で予定されていることもあるため,仏人学者との意見交換をすることも重要な課題である。 さらに,第3の主要な研究費の使途は,東京大学法学部附属近代日本法政資料センター所蔵資料の複写・引き伸ばし費用である。このセンターは,デジカメ持ち込みによる撮影が許されず,このため,1枚あたり,110円程度の撮影・引き伸ばし費用が必要になる。相当程度の予算をこの資料収集のために割く必要がある。
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Research Products
(7 results)