2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530018
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
小柳 春一郎 獨協大学, 法学部, 教授 (00153685)
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Keywords | 土地境界 / 日仏不動産法 / 地籍 / 土地所有権 / 相隣関係 |
Research Abstract |
本研究は,日本法が土地境界において筆界を重視する現状に鑑み,日本法においても土地所有権界を中心とした法理への転換の必要性を,フランス法を手がかりにしながら,指摘するものである。日本の境界法理では,境界確定訴訟が筆界を明らかにし,地籍調査も地租改正時の原始筆界の復興を目指し,筆界特定手続もまた,筆界の現地での位置について登記官が認識を示す制度としているが,このため,所有権界との有機的関連がない。例えば,境界確定訴訟でも所有権の問題が後に残される。これに対して,フランスの境界確定訴訟は土地所有権界を明らかにするものであること,ナポレオン地籍に始まるフランスの地籍は,税の根拠となる点が重要であるが,土地所有権界との関連が重要な役割とされていることを解明して,その法理の具体的あり方を究明し,なぜ日本の法理が生まれてきたかを解明する。 第2年度の本年度は①一方ではフランス地籍制度の検討を行い,②他方でフランス境界確定法理について仏語論文を発表した。具体的には,①では,フランス地籍制度を理解すべく,昨年度に続いて,南仏エクス・アン・プロバンスの県公文書館において,調査を行った。著名なミラボー通りの16世紀建築の建物の地籍図について,ナポレオン時代から1974年そして現在までの地籍図・地籍情報の変遷を,資料に基づき辿ることに成功した。成果の一部は,地籍問題研究会で発表し,日本の地籍関係者から「フランス地籍について始めて歴史的・体系的な説明を得た」との評価を得た。②では,パリ第二大学のグリマルディ教授等の編著であるLe patrimoine au XXIe siecle : regards croises franco-japonaisに日仏の土地境界法理について比較を行った。同論文は,同書中のStrickler 教授論文によっても引用されるなど一定の反響を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,フランスの境界確定法理及び地籍法理の解明を重要な目的としているが,境界確定法理については,2008年にアンリ・カピタン協会提出の民法物権法改正準備草案での境界確定法理について,仏語論文で検討を行い,境界確定が一定の土地取引になされることは土地取引安全のために有益なことを指摘した。もっとも,測量士の立入権の問題が残されていることも指摘した。さらに,ヨーロッパ人権裁判所で,フランスの土地境界確定法理についての判決が出ていることを発見し,これについての検討を行った。第1年度で伝統的な境界確定法理についての理解を深めたが,第2年度では近年の動向をフォローできた点で研究の順調な進展があった。 地籍法理については,そもそも,日本ではフランスの地籍についての知識が全くなかったことに鑑み,エクス・アン・プロバンス公文書館で実際の地籍簿を元にした検討を進め,特定地点について,ナポレオン地籍図から現代の地籍図まで地籍図の変遷と所有者の変動を辿ることが可能になるなど,資料の体系への認識を深め,資料操作が可能になった。二次的文献のみでは理解しがたかった点について,相当に理解が進み,本研究の基本的柱であるフランス法の解明が大きく進んだ。この成果を地籍問題研究会で発表し,現在の日本で地籍整備を進める実務家と意見交換することもできた。 また,日本の地籍法理・境界確定法理の解明に関しては,明治時代・大正初期の公刊裁判例及び実務家の論文をほぼ収集できた。境界確定訴訟と所有権確認訴訟とがともに所有権に関わるとすると,訴訟物が重複するのではないかとの疑問が裁判官により登場していたことが明らかになった。以上の点からして,研究は概ね順調に進展していると評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては,第1に,境界確定法理については,従来の研究の蓄積を背景に論文として具体的に成果をまとめる。これは,ヨーロッパ人権裁判所の境界確定に関する判決を検討し,結局のところ,人権裁判所は,現在までのフランスの境界確定法理を人権条約の財産権保障に反しないとしたが,これを人権裁判所の財産権保障法理との関連で明らかにする。 第2に,地籍については,19世紀における地籍のあり方について,地籍図が固定されていたため,土地境界確定訴訟において大きな意義を果たし得なかった点を具体的に明らかにする。さらに,具体の舞台としてエクス・アン・プロバンスを素材に地籍調査と都市発展の関連を明らかにする。また,現在の地籍再測量においては,日本と異なり,単に筆界を復興というよりも,現実の所有権界を明らかにする。フランス地籍制度について,エクス・アン・プロバンス以外の場所についても調査を行い,また,図表を多数使用した日本語論文の形にまとめる。 第3に,日本の境界確定法理・地籍法理の解明に関連しては,昭和26年の国土調査法制定過程の解明を継続する。平成24年度は,東京大学法学部附属近代日本法政資料センター我妻文書の利用に習熟する段階であったが,一定の理解に達したので,撮影,複写引き伸ばし等を行った上で,資料の分析に進む予定である。 第4に,研究のまとめの前段階として,日仏の地籍制度の相違について,フランスにおいて発表を行う。この点については,日仏都市研究の権威であるパリ第一大学地理学部のナターシャ・アブリヌ研究員からの提案があり,同研究員の紹介の下で同学部長であるヤン・リシャール教授とも相談を25年3月に行った。25年度中(25年9月13日を現在予定)にパリ第一大学地理部門においてセミナーを担当する予定である。これに関連して,アブリヌ研究員と継続的に相談を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費使用計画において重要な第1は,フランス境界確定法理・地籍法理の関連した文献購入である。すでに主要文献の購入は終了しているが,なお,補充文献の収集を行う。 第2は,現地資料調査である。これは,地籍制度と都市発展との関連をエクス・アン・プロバンスを素材に行っているが,同文書館における継続的調査を行う。関連して,エクス・アン・プロバンスの公文書館調査だけでなく,他の地方の公文書館調査(1箇所)も行い,比較対象の舞台としたい。これらのための出張旅費を計上した。 研究費使用計画の第3は,日仏のフランス境界確定法理・地籍法理比較のためのフランスでの発表である。日仏都市問題の中心的研究者であるアブリヌ研究員にも来日願うなどして成功裡にこの研究発表を行いたい。パリ第一大学地理学部はフランス最古の地理・測量部門の講座を有するのであり,ここでのセミナーを行うことで,一方では筆者の研究成果の発表とすると共に,他方で相互の情報交換・一層の問題発見の場としたい。これに関連して,アブリヌ研究員に来日を依頼して相談するなどセミナーを成功させるための準備を行いたい。 第4として,国土調査法成立史資料の複写・引き伸ばしのための費用がある。このセンターは,デジカメ持ち込みによる撮影が許されず,このため,1枚あたり,110円程度の撮影・引き伸ばし費用が必要になる。一定の予算をこの資料収集のために割く必要がある。
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Research Products
(13 results)