2011 Fiscal Year Research-status Report
公務員制度における公法的規律と私法的規律のあり方に関する日仏比較法研究
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23530028
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
下井 康史 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (80261262)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 公務員法 / 国家公務員労働法案 / フランス官吏法 / 公務員関係の法的性質 / 勤務条件決定システム / 公法的規律 / 私法的規律 / 労働協約 |
Research Abstract |
平成23年度の研究は、我が国における国家公務員制度改革の動きを追いつつ、2010年のフランス官吏法改正の内容を検証し、日仏両国の公務員制度における共通点と相違点を明らかにすることに当てられた。 まず、日本については、国家公務員法改正案と国家公務員労働法案が平成23年通常国会に提出された。中でも注目されるのは、団体協約締結権を一般職非現業国家公務員の多くに承認しようとする点に求められよう。ただし、そこで予定されている団体協約の効力は、民間企業労働組合における労働協約の場合とは異なり、規範的効力が否定され、債務的効力に限られる。つまり、政府は、国家公務員の組合と締結した協約に従い、法律事項については改正法案の国会提出義務を、命令事項については命令改正義務を、その他の事項については所要の措置を執ることが義務づけられたに過ぎない。 他方、フランスについては、2010年の官吏法改正により、官吏組合が労働協約を締結し得る旨が明文化され、一定の要件を満たした官吏組合が締結した協約であれば「有効」である旨も定められた。しかし、「公務員は法令規律上の地位におかれる」という、フランス公務員制度における従来からの基本原則も維持されている。 以上のことから、平成23年度は、公務員の勤務条件決定システムにおいて、法令による公法的規律と団体協約による私法的規律とのあり方及び関係を考察するという視点から、フランスの2010年改正官吏法における「有効」との定めが有する意味について、フランス法学界の議論を検討し、そのことを通じて、日仏両国の公務員制度における勤務条件決定システムの共通点と相違点を明らかにした。かかる研究成果の一端は、「フランス法の視点から--法令規律の仕組みと組合参加の制度」ジュリスト1435号(2011年)41-48頁で公にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度までは、主として、公務員制度における公法的規律と私法的規律のあり方に関する立法論的・法政策的研究の準備作業として、公務員勤務関係の法的性質についてのわが国及びフランスにおける学説と判例を検討する予定であった。 まず、わが国の公務員制度に関する研究としては、非現業一般職国家公務員の一部に協約締結権を認めるようとする国家公務員法改正案と国家公務員労働法案が平成23年国会に提出されたため、日本法にかかる平成23年度の本研究は、これらの改正案と法案を素材として、公務員制度における公法的規律と私法的規律のあり方、すなわち法令による規律と協約による規律とのあり方、具体的には、いかなる勤務条件を法令事項とし、いかなる事項を協約事項とすべきか、法令と協約の関係についていかなる法制度を構築すべきであるのかという、立法論的・法政策的研究に当てられた。従って、研究方針が変更されたことになるが、それは、平成23年通常国会に上記二法案が提出されたためであるから、研究の順序が若干前後したに過ぎない。 他方、フランスについては、2010年の官吏法改正により、官吏組合が協約を締結しうる旨が明文化され、一定の要件を満たした官吏組合が締結した協約であれば「有効」である旨も定められた。他方、「公務員は法令規律上の地位におかれる」という、公務員勤務関係の法的性質に関する従来からの基本原則も維持されている。フランス法にかかる平成23年度の本研究は、当初の予定通り、2010年官吏法改正に関するフランス法学界の議論を検討することで、公務員勤務関係の法的性質をいかに考えるべきかを検討したものである。 以上のことから、研究の目的はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究推進予定は以下の通りである。 まず、日本法については、平成23年の通常国会に提出された国家公務員法改正案と国家公務員労働法案が不成立の場合は、国家公務員制度及び地方公務員制度をともに対象として、公務員制度における公法的規律と私法的規律のあり方に関する立法論的・法政策的研究を行う。他方、同両法案が成立した場合は、国家公務員制度については、平成25年度以降に予定していた両法の解釈論的研究を前倒し的に実施し、地方公務員制度については、地方公務員制度特有の法制度のあり方につき、当初の予定通り立法論的・法政策的研究を行う。地方公務員制度の場合、国家公務員制度とは異なる検討点も少なくないため、別異の観点からの考察が必要となるためである。 次に、フランス法については、2010年改正官吏法にかかるフランス法学界の議論を引き続き検証する。 更に、以上の研究の土台となる考察として、公務員関係の法的性質の検討を実施する。また、法令による公法的規律の対象と協約による私法的規律の対象との範囲画定の問題と併せて、両規律の内容がいかなるものであるべきなのかについて、特殊な個人としての公務員、及び、特殊な労働者としての公務員という視点からの考察も行い、さらには、かかる特殊規律が及ぶべき人的範囲の検討も行うことで、公務員制度における公法的規律と私法的規律のあり方・内容・射程を総合的に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度研究費はほぼ計画どおり使用したが、若干ではあるものの、次年度使用額が生じた。これは、平成23年度中に購入を予定していた書籍の公刊が遅れたためである。平成24年度に使用する予定の研究費はその分を併せて使用する。同年度に使用する予定の研究費は、上記の研究を実施するための文献や機材購入、及び、出張等に使用する。 購入される文献は、公務員法に関するものに限られず、他の行政法分野のものにも及ぶ。公法的規律と私法的規律のあり方・内容・射程については、公務員法と他の行政法分野における比較という視点がきわめて重要となるからである。また、公務員制度における協約のあり方を研究する以上、労働法の文献が必要となることは言を俟たない。 出張は、日本国内における各種行政法及び労働法の学会や研究会への出席・報告のために行われる。本務との関係で可能な限り、フランス現地調査のための出張も視野に入れられる。
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