2011 Fiscal Year Research-status Report
新たな河川管理行政(流域治水論等)導入における検討課題の行政法学的比較法的解明
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23530030
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
磯村 篤範 島根大学, 法務研究科, 教授 (70192490)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 洪水マネージメント / 河川管理行政 / 治水 / 流域治水 |
Research Abstract |
1)大東水害訴訟最高裁判決の再検討 大東水害訴訟最高裁判決はその後の水害訴訟に大きな影響を与えた判決であるが、この判決の意味づけの再検討作業を進めた。大東水害訴訟の最高裁判決に対しては批判的な意見も有力であり、肯定できる点も多々あるが、他方で、河川管理行政のあり方を問うという意味でも有意味な議論を展開していること、特に今後河川管理行政過程論のアプローチを要すること、そのアプローチの一つとして「洪水リスクマネージメント」を検討対象にすることが明らかとなった。2)洪水リスクマネジメント概念の検討 「洪水リスクマネジメント」あるいは「リスクマネジメント」という考え方はきわめて多義的で、水理工学的には最広義で河川管理行政と同義に近いようであり、経済学的あるいは商学的には不調な側面が強く、ドイツの新水管理法では、一定のはにないでの理解が提示されている。法制度化されたリスクマネジメントの典型例を災害対策基本法に見いだし、災害リスクマネジメント法の基本構造を仮説的に提示することができた。3)責任の配分もしくは再配分について 災害を予防し損害を最小限にする上で、また、損害に対する救済制度を考える上で重要な、国・地方公共団体、地域コミューンそして個人の間で如何なる役割を分担し責任を担いうるかは、リスクマネジメントの重要な要素とすべきであると考えている。従って、公助・共助・自助の具体的内容の負担(Verantwortung)や救済の枠組での責任(Haftung)についての検討作業が必要となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)新たな河川管理行政の方向性として「防災から減災へ」「流域治水論」に注目して検討作業を始める予定であったが、自然科学者との共同研究の中で、社会科学的あるいは法学的なテーマとしてのリスクマネジメントに着目することになった。2)リスクマネジメント概念の多義性 法学の世界では「リスクマネジメント」に関する検討作業は比較的新しいテーマではあるが、経済学・商学の世界では相当以前から用いられた手法であり、水理工学などの自然科学でも比較的古くから用いられた概念であり、かつ広い意味で用いられてきているとのことである。そこで、リスクマネジメントとは何か、従来の議論の枠組と如何なる相違点を見いだすかということについて、容易ではなかった。3)法制度の見直しの困難さ 大東水害訴訟最高裁判決の考え方を本テーマに引きつけて理解すると、河川管理行政の本来の守備範囲の中で生じる損害に対する河川管理者すなわち国や地方公共団体の責任を認めるが、河川管理者の守備範囲を超えるものに対してまで責任を課すことは認めることはできないというものであった。このことを前提にすると、河川管理者は、今後、損害の発生とその救済も射程に入れた河川管理制度を構成することになる。行政の政策決定・計画確定が行われ、その実施のための施策が実施され、損害発生の危険性が高まると住民への情報提供や避難の勧告と人名救済などが行われ、その後復旧復興が課題となる。この様な法制度に災害対策基本法があるが、この様な枠組を河川管理行政に導入する仕組みの検討が課題となっている。4)新たな課題としての公私役割分担論 河川管理行政の責任を問うことは重要であるが、例えばドイツ新水管理法6条に規定があるように、本来個人の守備範囲となるところもあるのではないかが問われる。この点について公助・共助・自助に関する検討作業は新たな課題として検討が求められるに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
1)リスクマネジメントの内容の確定、法制度への導入をはじめとする河川管理行政過程全体の見直し リスクマネジメントは用いられる領域のニーズに応えるものになっている。したがって、河川管理行政の中でのリスクマネジメントとして求められる中身が問われる。EU水管理指令やドイツの新水管理法に現れたリスクマネジメント理解も活用しながら、日本型洪水リスクマネジメントの検討を行うことが大切である。2)この種の法制度の典型例は災害対策基本法である。この法制度にある積極的な要素を活用する河川管理行政が望まれる。 リスクマネジメントの内容は多様であるとして、河川管理行政過程におけるリスクマネジメントのあり方の検討が必要である。災害対策基本法を柱とする災害対策法制度を考え、そこでの河川管理行政過程の基本構造を仮説的にではあれ提示することが望ましい。また、比較法的な検討作業として、現時点では、特に、2009年制定のドイツ新水管理法の洪水リスクマネジメントに関する規定の検討を通して、洪水リスクマネジメントの概念の明確化を試みようとしている。3)国・地方公共団体と地域コミューン、そして個人の責任の守備範囲の検討を行う。 個人の守備範囲、個人の責任の範囲を検討する、しかし、この確定は、社会制度の現状、社会文化などの相違など、多様化している。この点について、ドイツ新水管理法が規定しているところであり、比較法的アプローチが必要。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1) 資料・諸政など物品等を入手するための費用の支出が予定される。 今後も引き続き河川管理行政の保持する情報やその他の情報を入手し管理するための研究費用の為運用する。2)リスクマネジメント導入と新たな法制度の検討 リスクマネジメントの制度化を考える上で、リスクマネジメント概念の類型化と河川管理行政過程に適合したリスクマネジメント概念を明確にする。意見交換や実態調査収集した情報の整理などに活用できる情報機器の運用を考える。3)交通費の支出 前述のように、実態調査や資料収集、意見交換の他、国際的共同研究を行うことを考えて、その旨の交通費の支給が必要である。特に、平成23年度研究計画の遅れに伴う残額は、昨年研究計画との関係では、国内外での資料収集や意見交換の遅れとの関連で生じている。この点は、今年度の研究計画の進行とも連続させて運用していくこととなる。4)その他 資料収集を行うための文具や資料整理のために必要な文具などの支出はやむを得ない場合もあるが、無駄な支出が内容に運用していく。
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Research Products
(4 results)