2012 Fiscal Year Research-status Report
新たな河川管理行政(流域治水論等)導入における検討課題の行政法学的比較法的解明
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23530030
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
磯村 篤範 島根大学, 法務研究科, 教授 (70192490)
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Keywords | 河川管理行政 / 洪水リスクマネジメント / 防災から減災へ / 氾濫原の活用 / 流域治水論 / 過渡的安全性 |
Research Abstract |
I 河川管理行政の変化と被害者救済制度の再検討 現在、我が国の河川管理行政は、ゲリラ豪雨や特定地域での停滞的集中豪雨化など極端気象に対応する新たな施策が求められるようになっている。しかし、施策の変更はいくつかの問題点を内包している。「防災から減殺へ」「氾濫原の活用」「流域治水論」等の新たな施策は、これまでの「絶対的安全主義」を変更するもので、1)河川近隣土地所有権者の権利侵害となる場合があること、2)「防災」という施策で保障されていた社会的個人的利益が、施策の「減災」への変更によって保護されなくなることを意味するのではないか、3)そしてこのことは、国民住民の権利利益に関わる重要な施策の変更を意味し、今日の民主主義的法治国家の枠組みのもとでは、民主的正当化手続を必要とするのではないかということである。大東水害訴訟は損害賠償責任に関し重要な判断を行ったが、特に、河川管理行政と不法行為に基づく損害賠償責任とを同一の守備範囲で捉えようとした点、そして河川管理行政が工事計画や予算などの様々な制約の下で行われ、「過渡的安全性」と理解した点は重要であった。河川管理の施策の変化とそれに結びついた賠償責任の理解は、一方で、損害賠償制度は本来の役割を担うものとなるが、他方で、実際に発生した損画の社会的再配分制度が新たに求められることになる。損害発生の予測を枠組みの中に含む洪水リスクマネジメントシステムは、その意味で、今後の施策の検討をするうえで有意義な手法と意味づけることを明らかにした。 II ドイツ水管理法における洪水リスクマネジメント計画の紹介 平成24年3月に、ドイツ・シュパイヤーのシュパイヤー行政大学において、洪水リスクマネジメントに関するシンポジウムが開催された。そこで、アンネッテ・グッケルベルガー教授(ザールラント大学)が行った上述のテーマの報告について、翻訳し紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新たな河川管理行政として登場してきている施策の問題点を指摘したが、他方で、そのような施策とも関連付けられながら新たな手法として導入されるようになった洪水リスクマネジメントの検討が課題となった。 洪水リスクマネジメントを検討するとそこで必然的不可避な課題として、警察行政との連続性やリスクマネジメント施策に固有の法理、さらには導入されたところに固有のリスクマネジメントの特殊性が検討課題となった。 洪水によって生じた損害の社会的再配分は、不法行為に基づく損害賠償責任の枠組とは異なる制度を用意しなければならないことになるが、そのための手法、災害対策基本法制度との関連や洪水保険制度の可能性などを検討課題とするにいたった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度であり、研究の成果を明示するために、以下の作業を重点として作業を進める。 1) 洪水リスクマネジメントの検討 「防災から減災へ」あるいは「氾濫減の活用」「流域治水論」など新たに導入されている施策やハザードマップの作成は、広義では洪水リスクマネージメントともいえるが、この種の施策の類型化を行い、採用する上での条件なども検討していく。氾濫減の活用による洪水による災害の削減は洪水の生じる時期における農業の休止時期と重なるか、地役権を設定した上で農業の継続を認め、洪水の発生による損害を事前に救済しておくなど、様々な手法が登場しており、これらの検討も課題とする。 2) 洪水の発生を予測してそれに対する計画を策定し、洪水が発生した場合にはクライシスマネジメントを行い、さらに復旧復興をその後の課題とする災害対策基本法の枠組を河川管理法制度に組み込む手法の検討をする。旧来の鉱物管理としての河川管理という処理は今日では不十分になっており、特定都市河川浸水被害対策法制度の検討やさらに都市計画などの様々な行政領域とのリンクが求められる。この点についての実態の把握もしながら現状の到達点と課題を検討することが必要である。 3) 被害者の救済、災害の社会的再配分の手法は、損害賠償制度とは本来異なる法制度として検討されなければならない。洪水から生じる災害の社会的再配分として、災害救助法や被災者生活再建支援法の意義と限界、新たな制度としての洪水保険制度などの検討が、不可欠の課題と言える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(2 results)