2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530037
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
大橋 洋一 学習院大学, 法務研究科, 教授 (10192519)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 避難勧告 / 避難指示 / 災害対策基本法 / 避難準備情報 |
Research Abstract |
大規模災害時における避難法制としては、災害対策基本法に避難勧告、避難指示に関する規定が存在するが、近年の災害時において、様々な課題が実務上存在することが指摘されている。本年度は、内閣府の中央防災会議に設置された避難に関する研究会(中央防災会議「災害時の避難に関する専門調査会」)に参加し、自然災害対策に取り組んでおられる自然科学者の委員等と意見交換する機会を得たほか、同時に、内閣府職員の収集した膨大な行政資料に接することができた。こうした経験を通じて、現行の避難法制の問題点として、第1に、避難勧告と避難指示の法的性格、及び両者の使い分けに関するルールについて研究を深めることができた。両者が非権力的な手法であることを、警察官職務執行法上の措置や災害対策基本法上の警戒区域設定と比較して、明確化することができた。両者の優先関係についても明らかにした。第2に、現行法は、避難が立ち退き避難を中心に構成されており、その他の多様な避難類型を明示する機能に弱い点を指摘した。具体的には、垂直避難等を法律上も明記する必要性である。第3に、避難勧告等の具体的内容、発令方法に着目し、市民にわかりやすく、具体的で、避難につながりやすい発令のあり方を探求した。新しい表記や用語法の採用に当たっては、実験を経た検証過程が重要であることも併せて明らかにした。第4に、避難勧告の発令にあたり、首長を支援する行政組織、行政手続の重要性も分析した。このほか、避難準備情報を法定化する意義についても考察し、併せて、災害時要援護者の支援について、法政策の観点から明確にした。いずれも、行政実務に対し参照価値の高い内容であり、また、災害対策基本法の改正作業に対しても示唆に富む内容と考えている。 上記の成果は、自治体職員も多く購読している自治研究誌に本年8月に掲載することが決定している(88巻8号掲載予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第1に、現行法制の抱える問題点に関しては、上記の審議会に参画することを通じて、その大要を把握することができた。今後は、その対応策について、具体的に深めていくことが可能になったと考えている。 第2に、研究初年度に行った現行法上の問題点の整理を、自治研究誌に掲載するレベルにまで具体化することができた。公表作業を通じて、一層広範囲にわたり、関連の行政機関や防災担当者等との意見交換や連携は一層容易になるものと考える。 第3に、後述するように、上記審議会への参画を機縁に、内閣府から従前の防災(特に避難)に関する検討資料を入手することができたため、研究の2年度はその分析に直接着手することが可能になっている。 第4に、国土交通書に設置された災害復旧に関する研究会にも参加し、東日本大震災の被害状況、復旧状況の調査結果に接し、併せて、災害時における実際の避難動向についても実証的なデータを得ることができた。とりわけ、実際の被災時に市民が採ることのできる避難行動を理解することは、避難に関する法制度の設計にとって極めて有用な指針になると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の初年度において、現行法制の抱える問題点を把握することができたことから、本年度はそうした課題について、多角的に分析し、理解を深めたい。 第1に、これまでも、内閣府、国土交通省を中心に、地震、風水害、津波、土砂災害等に関して、担当部局の調査、関連の研究会、審議会が、避難法制上の課題を記した研究書や報告書を多数公表している。これらは書店や図書館等で入手することは困難であるが、内閣府の職員の方のご協力で膨大な行政資料を入手することができた。先ず、こうした行政資料の解析から研究の進展を図りたい。 第2に、上記の解析結果を比較法的視点の下で分析したい。2012年6月には報告を担当する東アジア行政法学会(韓国ソウルで開催)において、韓国、中国、台湾の研究者とも意見交換の機会を持ちたい。また、あわせて、ヨーロッパの防災法制との比較にも着手する。 第3に、現行法を対象に、避難に関する法規定の現状を分析し、現行法で用いられている立法技術の具体的内容、発展動向、課題を明確化する作業を実証的に進めたいと考えている。これは、立法論を展開する上での前提作業を意味する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
わが国の防災法制、避難法制に関する基礎資料を分析するために、関連の図書を古書も含めて物品費として大量に購入する予定である。災害の類型別に、風水害、土砂災害、津波、地震、ゲリラ豪雨等、広範に資料の収集を図りたい。 併せて、被災地を実際に訪れて、関係者へのヒアリングを行うほか、実地調査も行いたい。そのために、撮影機材等を物品として購入するほか、交通費を計上した。被害に関して記した調査研究報告書等の収集も併せて行いたい。 さらに、比較法的研究を進展させるため、ヨーロッパ、特に、ドイツの法制との比較を行うために災害等の危機管理を主題としたコンメンタール等の図書の購入を進める予定である。リスク管理に重点をあてた文献も考察対象に加える。 なお、現在担当している国家試験の試験委員業務と調整がつけば、ドイツ等に視察に訪れ、親交のある諸教授と意見交換するほか、併せて、資料収集にあたりたい。 自治研究に公刊した論文に関しては、公法研究者と意見交換の機会を持ち、当該論文の一層の進展を図りたい。
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Research Products
(5 results)