2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530038
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
楠 茂樹 上智大学, 法学部, 准教授 (70324598)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 会計法 / 地方自治法 / 公正取引委員会 / 入札 / 談合 / 官公需 |
Research Abstract |
官公需分野の監視の主体として以下の区分に分け、各々について情報収集と考察を行った。(1)公的機関としての公取委、会計検査院、総務省等(2)発注者設置の第三者委員会(入札監視委員会、契約監視委員会等)(3)ビッドプロテストの主体としての(落札・非落札)業者(4)監査請求の主体としての住民(5)発注者自身。(1)公取委の官公需規律へのかかわりについて、大方の情報収集と分析が終了した。これまでの官公需分野への独禁法の適用状況、違反類型を丹念に洗い出した。「公共入札ガイドライン」の改定状況、「入札談合防止の手引き」等から不当な取引制限、官製談合防止法等執行の考え方を詰めて考察した。また独禁法の適用状況とは離れて、官公需における契約上の義務付け等に対する公正取引員会の競争政策の観点からの示唆について考察を行った。(2)第三者委員会については、自ら委員を努める発注者を中心に関連資料の入手やヒアリングを行った。常に形骸化の危険があること、形骸化しないためのコミットメントのあり方について考察を行った。(3)一般競争入札が徹底化される中で活発になりつつあることを指摘し、具体例として、新潟のケース、佐賀のケース等の情報収集を行った。同時に、官の無謬性が前提にされていた時代になぜにビッドプロテストが皆無に等しかったかの考察、分析を行った(貸し借り、囲い込みの背景を指摘)。(4)住民監査請求、住民訴訟については、原告の主張が通った(住民側が勝訴した)ケースの情報収集を行い(奈良市等)、住民側が勝つための条件について考察した。(5)発注者側のモニタリングとして、システム調達を取り上げ、CIO補佐官の役割(とその機能不全)について考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、競争政策の観点からの官公需の監視を行う公取委関連の情報収集と分析がほぼ終了したことが大きい。独禁法違反の中でも不当な取引制限規制違反である入札談合、それも受注者側の違反の摘発ばかりが行われてきた状況、なぜに発注者側の違反にはアプローチしないのかの理由(その代替手段として官製談合防止法があるが、同法自体の問題性)を明らかにできた。舟田正之教授の一連の業績以外の研究が皆無である状況を指摘し、それが「事業者」性という入口の段階で門前払いされている状況を明らかにした。諸外国の主体要件論もほぼ出尽くした。連邦機関であること自体を理由に反トラスト法の主体性を認めない判例法の下、競争性確保のための会計法令上の規律、および盛んなビッドプロテストが機能している米国の状況について、その入り口(問題の切り口)の部分に到達することができた。 第二に、発注者第三者委員会の役割とその限界について詰めた考察ができたことが大きい。条例化するかどうかの問題もあるが、そうでなくても権限と責任についての「コミットメント」をどう持たせるかが大きな要因であり、多くの第三者委員会では単なる「アドバイザー」に過ぎない状況を指摘するとともに、コミットメントを強める制度設計の考察を進めている。 第三に、ビッドプロテストが成功するための条件について、具体的なケースを前提に考察を進めることができた。具体的には、最低制限価格の算出根拠を開示しない状況下であれば不自然な失格通知が業者に来たとしても争うことが困難な状況にあるケースに接し、官公需の効果的なモニタリングのための必要条件について詰めることができた。発注者の「入札の公正さを維持する」というお決まりの理由付けが果たして妥当するかについて、関連情報の事後公表の要請との交錯の問題として分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)現在最終段階にある拙著『公共調達と競争政策の法的構造』の執筆を完成させる。同時に、比較法的分析にかかわる部分、日本の特殊性にかかわる部分について再構成したものを英文化して米欧の専門誌に投稿する。(2)会計検査院や総務省といった公取委以外の公的機関へ考察の対象を広げる。(3)公共調達と競争政策の交錯について、発注者に対する独禁法のかかわりをより強調した制度設計論、解釈論を展開する(ALBERT SANCHEZ GRAELL, PUBLIC PROCUREMENT AND THE EU COMPETITION RULES (2011)を熟読することで、さまざまな情報への取り掛かりとする。並行して、同書の書評論文を作成する)。(4)ビッドプロテスト、住民監査請求(住民訴訟)の情報収集を進めファイル化する。(5)最終年度に向け、研究の全体的とりまとめについてのフレームワークづくりを進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品については、最新の著作、資料の入手に充てるとともに、トナーカートリッジ等各種消耗品の購入に充てる。旅費については、(1)ビッドプロテストをした業者へのヒアリング、された発注者へのヒアリングのための出張旅費とする、(2)各種国内研究会において発表するための出張旅費とする(最低3回は予定。東京の他に、関西地区、北海道地区を予定)、(3)諸外国で行われる本テーマに関連したシンポジウム等での報告、傍聴のための出張旅費とする。なお、24年度においては大学の夏季休暇期間等を利用して、同テーマを専門とする教員が在籍する諸外国の大学にて短期訪問研究を行うことも検討中である。その際はそのための旅費、滞在費に充てる。
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