2012 Fiscal Year Research-status Report
「個人の尊重」を基本理念とする、刑事手続条項の新たな人権解釈の創出
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23530041
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
押久保 倫夫 東海大学, 法学部, 教授 (30279096)
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Keywords | 個人の尊重 / 人間の尊厳 / 刑事手続条項 |
Research Abstract |
本年度は、本課題の中心概念である日本国憲法13条の「個人の尊重」及び、それと深く関係するドイツ連邦共和国基本法1条の「人間の尊厳」の概念について深く探求を行う研究を行い、それに基づく刑事手続条項の新たな人権解釈の指針を追求した。そしてその成果を、「関係概念としての『人間の尊厳』」(東海法学46号、2013年3月)として発表した。 そこでは、「人間の尊厳」を人間と人間との関係性として捉えるドイツの諸学説を検討し、そのあるべき姿を考察した。まず、現実の次元では人間と人間との関係性は多様性にこそ本質があり、一般的関係性を実体化してはならず、抽象的関係性は規範上でのみ可能であることを明確に示した。 そして規範上の関係性としては、一方で人間の尊厳の解釈の前提理解として、条文上の文言を基礎にそこから想定される「関係」を提示するものがあるが、この場合、それはあくまでフィクションであることを自覚することが重要であり、さらにそれはこの関係性に入らない者を排除する機能を潜在的に有しており、人間の尊厳の本質からして警戒的である必要があることを明らかにした。他方で、人間の尊厳の「尊重」という規範的要請自体を「関係」と理解するものがあり、これは当事者の具体的事情・主観的意図を判断の要素に持ち込むことにより、解釈を柔軟化するもので、このような把握の成否は、適用される問題に対応した、要請される規範的関係性の具体化の態様如何にかかっていることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、本課題の中心概念である日本国憲法13条の「個人の尊重」と深く関係するドイツ連邦共和国基本法1条の「人間の尊厳」の概念について、憲法理論研究会の夏合宿で発表および質疑応答を行い(2012年8月30日)、そして「研究実績の概要」で述べたように、当該概念を関係性して把握する際の、あるべき姿を提示した。これらは、日本国憲法13条の「個人の尊重」を理解する際も、直接参考になるものである。 このように、人間の尊厳や個人の尊重といった、本研究の基本理念について理解を深める研究は進んでいるが、これを日本国憲法の刑事手続条項に適用して新たな解釈を提示することは、構想をまとめる段階に留まっており、まだまとまった発表をするに至っていないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「人間の尊厳」との比較において「個人の尊重」についての理解を深めながら、刑事手続条項の新たな人権解釈の指針を確立する総論的研究を進めることはもちろんであるが、それに基づく刑事手続条項の各々の解釈を具体的に提示する作業を行わなければならない。 そのためには、被疑者および刑事被告人の権利、そして刑事補償のそれぞれについて、これまで理解を深めた「個人の尊重」を基礎に置くことによって、既存の憲法・刑事法における学説とは異なった捉え方ができ、それに基づく異質な結論が得られる面を確定して、それに焦点を当てた論文を発表していかなければならないだろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は前半ドイツに滞在していたので、研究費の使用が事務手続き上難しく、その使用は年度の後半に集中することとなり、かなりの額の繰越金が生じてしまった。本年度は、それを含めての使用を目指したが、国内での夏休み中の研究発表や、所属校での校務等により、外国出張を当初考えていた通りには行えず、「次年度に使用する予定の研究費」が生じてしまった。 本年度も、必要な内外の文献を購入するのはもちろん、資料収集のための国内・国外旅行、さらに必要ならパソコン及びその周辺機器等の費用などに、研究費を使っていく計画である。 さらに本年度は、本研究に関する最終的成果としての論文を公刊していく予定なので、これについての細かな費用等が必要な場合は、本研究費をそれに使用していく。
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