2013 Fiscal Year Research-status Report
日本とドイツにおけるポジティブ・アクション政策の比較憲法的考察
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23530044
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Research Institution | Toyama University of International Studies |
Principal Investigator |
中村 環 (彼谷 環) 富山国際大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70288257)
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Keywords | ポジティブ・アクション / ワークライフバランス / ジェンダー / 男女平等 / 政党内民主制 / デモクラシー |
Research Abstract |
1、本研究は、「政策・方針決定過程」における女性参加を促進するため、「積極的差別是正措置」(Positive Action=PA)が政治、経済、社会領域等においてどのように導入されてきたか、その背景と現状を分析し、日本国憲法に適合的なPAの内容と具体的種類、合憲性審査について考察するものである。H25年度の実績は以下のとおりである。 2、本研究のこれまでの成果について、憲法理論研究会夏季合宿報告会で発表した。そこでは、女性の政治的過少代表がなぜ問題となるのかを出発点としながら、その解消策として講じられるPAの法的・社会的性格や憲法適合性について、ドイツの議論を参考に考察した。とくにドイツでは、PAの一形態であるクオータ制度を政党が自発的に導入してきた結果、政治領域における女性の増加に影響しているとされる。また、1994年改正基本法における平等条項(3条)と憲法的要請である政党内民主制(21条)をめぐる議論を素材に、日本の場合におけるクオータ導入の憲法上の可能性と限界についても考察した。報告後の質疑では、①日本の諸政党がPAに対しいかなる態度をとっているか、②「多元的政党エリート」の必要性は男性党員の権利保障も射程に置くものではないか、という今後取り組むべき課題を発見することができた。なお、同報告は、H26年10月発行の憲法理論叢書に論文として掲載する予定である。 3、本研究は、労働法や国際法等の接合領域からも考察可能なテーマであるため、2014年3月発行富山国際大学子ども育成学部紀要第5巻に、「雇用の場におけるジェンダー平等を目指す動きと課題」を掲載した。論文では、男女雇用機会均等法成立から30年を経てもなお、日本の女性管理職の比率は低く、労働領域における男女の格差が大きいことから、日本の労働政策がジェンダー平等の目的から遠ざかる状況を生み出す諸要因を整理検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目は、ドイツの政党における議員の擁立手続にPAはどう活かされているか、また、それは民主主義とどのように関連するか等、ドイツにおける実態面と理論面の考察を中心に行なった。2年目は、全国の地方公共団体で導入され始めているWLBの内容と導入状況につき、代表者が生活する富山県高岡市総務課と調査研究を行い、WLB懇談会の座長として「WLB推進指針」と「WLB推進事業所認定制度」を策定した。H25年度は当初研究最終年度であったが、EUがクオータ導入を積極的に打ち出したことでドイツ国内の議論も変化したため、さらに1年間の研究期間延長が認められた。なお、H25は、PAに関するデータベースの作成も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初3年計画で進められたが、最終年度にEUのPAに対する積極的姿勢がみられたことから、1年間研究期間を延長し、課題に取り組む予定である。具体的には、第一に、ドイツの政党が採用するPAの具体的手法とその成果に関する整理・考察を行う。第二に、ドイツと日本の諸政党に対し、PA導入に対する意識と進捗状況についてアンケートを実施するとともに、とくにドイツの政党には「企業幹部へのクオータ導入法案」についても調査を行う予定である。第三に、これらの作業を通じて、「日本型PA」の憲法論的考察をさらに深めたい。日本国憲法は政党の地位を定めた規定をもたず、自由な活動を保障された結社としての地位を有すると解されてきたが、憲法改正をめぐる議論のなかでは、政党条項を新設したり、女性の地位促進のためPAを導入しようという動きもみられる。研究最終年度では、公共圏における政党の憲法的地位を再検証するとともに、PAの導入とその法的効果との関係をまとめ上げたいと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.今年度は、2013年のドイツ連邦議会選挙後、国家レベルの政党に対し、ポジティブ・アクションと「企業幹部へのクオータ導入法案」についてアンケート調査を行う予定であった。だが、その後EUがクオータ導入を積極的に打ち出し、ドイツ国内の議論も変化したため、アンケート実施時期の変更と設問項目の見直しが必要となった。 2.上記の変更に伴い、日本の政党へのアンケート調査も日程調整する必要性が生じた。 1.ドイツと日本におけるポジティブ・アクションをめぐるアンケート調査を実施するため、翻訳料、データ集計作業を含む人件費・謝金として30万円を予定する。 2.物品費として、ドイツと日本における政党や女性研究の文献・資料購入費として30万円程度、PC周辺機器購入を含むデータ管理費として40万を予定する。 3. アンケート結果を活かした研究成果を学会・研究会で報告するための旅費として20万円を予定する。
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