2011 Fiscal Year Research-status Report
国際契約規範における市場の活用についての法律学的研究
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23530050
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
齋藤 彰 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80205632)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際取引法 / 国際契約法 / 市場統合 / 取引費用経済学 |
Research Abstract |
国際的な契約において市場の整備が契約規範形成にどのような役割を果たしているかを調査するために、複数の実務法律家からの聴き取り調査や意見交換を行った。2011年8月には国際的な仲裁人であるL. Barrinton氏から最近の国際商事仲裁の動向について情報提供をうけた。9月中旬には韓国の漢陽大学が主催する学会で、韓国・中国・シンガポールにおける商事仲裁の状況について意見交換を行った。また9月下旬には、マレーシアのビジネス法律家であるJ. Leong氏から、国際的な株式上場・企業買収・合弁・イスラム金融などの国際契約の契約書をもとに、具体的な実務の指向について情報を収集した。10月には韓国ソウルで開催されたLawasiaの大会に参加し、アジア各国の法律家と国際取引の進展について意見交換を行った。11月に日本大学で開催された国際商取引学会において、日本の法律家や貿易実務の経験者から、特に日本の輸出入についての取引慣行について情報を入手した。12月中旬には国際的な仲裁弁護士J. Claxton氏から、最近の欧州における国際紛争の傾向や、商事仲裁手続の変化について説明を受けた。2012年3月中旬にはフランスの国際商業会議所で、欧州における国際商事仲裁の状況について説明を受けた。3月下旬には香港国際商事仲裁センター事務局長のC. Bao氏から香港の商事仲裁の現状について説明をうけた。また、香港の法律事務所Deaconsで最近の香港における国際取引に関連した法律業務の現状について説明を受けた。 以上のように本研究についてのフィールドワークは順調に進んでおり、こうした中で市場統合に向けた国際通商政策の視点が、国際取引の進展に大きく影響を与えていることがある程度明確になった。また、紛争解決制度の重要性やその進展が国際ビジネスの展開と表裏一体も関係にあることも確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度には多くの実務法律家から、さまざまな新たな情報の提供を受けることができた。また、そうした情報に基づいて、国境を超えた市場化促進が、広い意味での契約環境に一定の変化をもたらしていることも確認することができた。さらにそうした変化を促すメカニズムについて分析を進めるための方向性について、ヒントを得ることができた。そうした点において、研究は確実に進展しているといえる。 しかし本研究の最終目的は、市場のグローバル化を推進することによって高めれた効率性を、国際契約規範が具体的にどのような方法やメカニズムによって、個々の当事者達によるさまざまな契約関係の中に浸透させていくのか(させることができるのか)明らかにすることであり、そのためには一層の情報収集とその分析に加えて、これまでのさまざまな分野における理論的研究の成果を取り入れることが必要となる。 本研究は4年計画のものであり、その1年目としては順調に推移しているといえるが、本研究が目指す最終目的との関係においてはまだ途についたところであると自己評価すべきであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
これからも実務法律家からの情報の収集や意見交換を活発に継続していく必要がある。他方で、法と経済学や取引費用経済学の最新の成果を取り入れたり、国際経済法の分野における重要な資料や文献を読み込んだりする作業が、一層重要になると考えている。また、アジアにおけるEPAの活性化やTPPの進展が、特に日本の産業界との関係において、どのような取引をどのようなメカニズムによって具体的に促進することになるのか、またその際に特に契約法という視点からどのような調整や新たなルールの整備が必要とされるのか、といった問題を視野に入れていく必要性は大きい。 このように、本研究を進めていく方向性はかなり明確になりつつあるといえるが、そのためにこなすべき作業量はかなりものになると考えられる。同様の関心を持って研究を進めている大学院生や若手研究者とも協働しながら、研究のスケールを維持したうえで、その精度を高めていく工夫を積極的に行っていく所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の収支報告状況報告書の段階では、次年度に来る越される予算がかなり残っていたが、これは昨年末以降海外出張等が重なり、ハード面での研究環境を整備するための研究に必要な情報機器を整備する準備が若干遅れたためである。すでに本年度末までにこうした目的での備品の発注を完了し現段階で納入が完了している。そのため、発注ベースではすでに本年度の予算をほぼ予定通り使い切っている。 次年度には、上記の研究実績の進展を踏まえて、理論的成果を吸収するため、最新の資料や文献を購入する費用を少し多めに支出する予定である。契約法や国際経済法などの文献に加えて、経済学や国際通商政策に関連した文献が特に必要とされる。また、EUの新たな動向に注目する必要も大きい。特に、消費者や中小企業を視野に入れた欧州共通売買法を規則として整備する提案を欧州委員会が2011年に行っているが、これも本研究との関係において十分に検討されるべき問題である。このため、EU契約法に関するこれまでの議論を整理し再検討する必要があり、そのための資料購入や出張も計画中である。また、国内の他分野の研究者との意見交換などを積極的に行うために、旅費等を支出する予定である。
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Research Products
(4 results)