2012 Fiscal Year Research-status Report
国際契約規範における市場の活用についての法律学的研究
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23530050
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
齋藤 彰 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80205632)
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Keywords | 国際契約 / 国際商事仲裁 / 投資協定仲裁 / ASEAN / 国際研究者交流 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
本年度は、中国・イギリス・香港・マレーシアにおいて調査を実施した。24年4月には汕頭大学で開催されたシンポジウムにおいて、市場化の進展が契約に関する紛争処理方法に与える影響について、中国各地の法律家に加えて、フランス・イギリスの比較法研究者と意見交換を行った。特にアジアで急発展する国際商事仲裁において法律言語が仲裁市場にどのように影響するかについて問題提起を行った。9月にはEUにおける市場発展において、法的伝統の違いが生む制度間競争が特に国際私法の展開においてどのように影響を有するかについてスコットランドの研究者との意見交換を行い、さらに12月にはこの問題について神戸大学で研究会を実施した。また10月と12月には、香港とフランスで仲裁実務に携わる法律家から、それぞれ新しい仲裁の動向について情報収集と意見交換を行った。25年3月中旬には香港においては、模擬仲裁大会に学生と参加するとともに、法律事務所及び香港大学の研究者から、国際商事仲裁に関連して、法的伝統や法学教育がどのような変容を受けているのかについて情報を収集した。3月下旬にはマレーシアの法律事務所を訪問し、ASEANにおける市場化と国際ビジネス法務の需要について最新の情報を収集した。 本年度は多くの研究者・実務家から直接に意見を収集した。そうした中で、国際売買に限らず、さらに複雑性の高い契約が国境を超えて進展しつつあり、そうした場面における法律家の関わり方にも、大きな変化が見られることが明らかとなった。また、国際商事仲裁のような脱国家的紛争解決方法が急速に進展しており、それは国家自体にも影響を与えつつある。特に、二国間投資協定の領域を超えてTPPなどの多国間協定においてもその導入が検討されている投資協定仲裁において、国家をも市場の中の1プレーヤーとして扱う動きが本格化していることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際契約規範の形成において、水平的な市場を活用する方法がどのように進展していくのかを主題として、これまで研究を行ってきた。その結果、国際的な契約に携わるプレーヤー達が、契約上の権利義務を設定する場面に止まらず、当事者間に利害をめぐる何らかの葛藤が生じた場面においても、国際商事仲裁に典型的に見られるような、市場的な調整方法を用いる動向が存在することが鮮明になってきたいることが判明した。 国境を超えた複雑な取引の進展の中で、国家もそうした契約の一当事者として扱われはじめており、利害関係の調整を行う投資協定仲裁や投資調停など、市場的で水平的な紛争解決方法の使用が急速に展開していることも明らかとなった。また、インフラ整備や資源開発などの大規模で複雑性の高い契約活動が相加する中で、水平対等の市場的な取引活性化や競争的環境の活用を阻害する要因に対して、これまで以上に鋭敏で迅速な法的対応を求める意識が広く共有されつつある。例えば、近時の国際的な賄賂や汚職に対応するための規整の強化も、そうした市場化進展との関係において理解されるべきものであることが明確になってきている。以上のように、本研究は、おおむね順調な進展を遂げてきていると自己評価する。 しかし他方で、投資協定仲裁のように国家を市場的ゲームの1プレーヤーとして扱おうとする動きの展開を、狭義の契約規範という視点から内在的に把握するには一定の限界があることも明らかとなった。その中核には、国際公法の原理との折り合いを何とか維持しながらも市場化を進展させようとする、水平主義者としての法律家像が見られるように思われる。現在、日本においても議論がなされているTPPの中のISDS(Investor Sate Dispute Settlement)の制度も、市場化展開の一場面として補足する方法の検討が、本研究において要請されていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においては、国際契約規範の形成において市場を活用した方法を分析する際に、私法的な場面に限定して扱うこをを前提としてきた。しかしこれまでの研究実績を踏まえると、私法的な視点からだけでは十分に対応できない問題が多く存在することも明らかとなりつつある。 しかし、本研究の出発点である契約規範における市場の活用という視点は、これからも基本的に維持できると考える。なぜならば、国際的な契約の進展を主導するものが、個々の契約プレーヤー達が契約の実現によって双方的に獲得する余剰価値の効率的な実現にあることに変わりはない。人々のそうした認識の共有が、一見過激とも思われる市場化推進全体を支える基盤となっているは疑いない。 そこでこうした方向にも配慮した上で、本研究計画を実施する際の観察対象の幅を若干広げる方法をとりたいと考える。現時点で顕著なものとなっている、そこで、取引的な不正に対するより規整や、国家を市場的な紛争解決方法である仲裁の当事者として扱うために生み出された諸規範をも、広義の契約規範として拡張して補足する方向へと本研究全体の視野を広げる方法で対応して行きたい。 本研究が十分な成果を上げうるかどうかは、国際的な契約の展開の中の様々な場面において生じつつある新しい現象を正確に理解するとともに、これまでと同様に、様々な分野の研究者や先端的な実務を担当する法律実務家との意見交換や共同研究をますます進展させていく必要性は大きい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
とくにわが国にとって影響の大きいアジアを中心とした各地において、ビジネス法律家及び国際商事仲裁・国際商事調停などに携わる法律実務家からの情報収集・意見交換を行うために旅費を用いる予定である。中国及び香港、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアを候補地として計画している。また本研究の中心的な成果を論文にまとめる準備作業を進める。そのために、情報を整理分析し、公表するための準備作業を行うために、研究費を用いる予定である。
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Research Products
(5 results)