2012 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける移民労働者の生活保障に関する双方向的研究
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23530059
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
江口 隆裕 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (10232943)
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Keywords | 移民政策 / モロッコ / フランス / チュニジア / アルジェリア / 生活保障 |
Research Abstract |
平成24年度は、平成24年5月17日に筑波大学とアルジェリアのモハメッド・ブディアフ・オラン科学技術大学(Universite des Sciences et de la Technologie d'Oran Mohamed BOUDIAF)の共催で行われた第2回アルジェリア-日本アカデミック・シンポジウムで「Depopulation, Vieillissement et immigration ?(人口減少、高齢化そして移民?)」と題して発表を行った。ここでは、日本とアルジェリアの人口構造を対比させた上で、本研究の趣旨・目的を報告し、アルジェリアの研究者に対し、本研究への協力を呼びかけた。 さらに、同年10月から11月にかけてフランス及びモロッコの現地調査を行った。フランスでは、アルザス地方のミュルーズ市でアレオス(aleos)という非営利団体が運営する高齢者居住施設を訪問した。ここは、高齢化したマグレブからの移民労働者が多く入居しており、実質的には移民労働者の支援施設となっているため、移民労働者のフランスにおける老後生活の実態がどうなっているかを調査することができた。 次に、モロッコのマラケシュにあるカディ・アヤド大学(Universite CADI AYYAD)を訪問し、研究者と意見交換を行うとともに、社会保障金庫、国立図書館などを訪問し、モロッコの社会保障制度及び移民に関する調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、モロッコを訪問し、移民に関する調査を行うとともに、同国の社会保障制度についても概要を調査することができた。また、アルジェリアでは、アカデミック・シンポジウムで本研究への協力を呼びかけることができた。 さらに、フランスに関しては、「フランコ-マグレブ文化交流センター(Cicfm)」との接触はできなかったものの、アレオスが運営する高齢移民労働者の居住施設を訪問し、マグレブの移民労働者の老後生活の実態を調査することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、チュニジア及びモロッコにおいて現地調査を行うことができたので、平成25年度は、可能であればアルジェリアの現地調査を行い、同国とフランスとの複雑な歴史的関係の中で、移民が母国によってどのような役割を担わされてきたのかを明らかにしたいと考えている。 また、移民の研究を進める中で、移民問題はその国の国家観と表裏一体であることが明らかとなってきた。すなわち、フランスは、国籍の取得要件として血統主義とともに出生地主義をとっており、フランス人でなくても一定の居住要件を満たせばフランス国籍を取得できるという扱いをしてきた。これは、フランスという国が、血統にこだわらず、外国人を国民として認めてきたことを意味しており、この意味において、フランスでは国民と外国人の相違は相対的で流動的なものとなる。同時にフランスは、戦争や産業振興など自国の都合のために移民労働者を利用したという歴史を有しており、しかも、ヨーロッパからの移民とマグレブからの移民とで取扱いを異にするという歴史を持っている。 本研究を進める中で、マグレブの移民問題は、移民自身の経済的利益追求だけでなく、フランスと母国との政治的関係の下で国家の都合によって利用されてきたという側面もあることが明らかとなってきた。したがって、今後は、移民の生活保障という観点だけでなく、国家にとって移民がどのような意味を持っていたのかという観点を加えて、送り出し国たるマグレブ諸国と受け入れ国たるフランスについて双方向的な研究を進めたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度にモロッコの調査を行うことができたので、平成25年度は、可能であればマグレブ一の大国であるアルジェリアで現地調査を行いたいと考えている。しかし、平成25年1月に発生した武装勢力によるガスプラント襲撃事件以降、首都のアルジェも安全とは言えず、もうしばらく様子を見たうえで、場合によっては、モロッコ、チュニジアでの調査に切り替えることも考えたい。 また、フランスの移民関係団体等を訪問し、フランスにおける移民労働者の生活実態を調査するとともに、フランスの移民政策の沿革等も調査する予定である。
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