2011 Fiscal Year Research-status Report
グローバル経済下の年金制度のパラダイムシフトとその影響に関する日独比較研究
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23530065
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
田中 耕太郎 山口県立大学, 社会福祉学部, 教授 (40275433)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日独年金制度比較 / 公的年金のパラダイムシフト |
Research Abstract |
3年計画の初年度に当たる平成23年度は、日独両国における年金制度改革のパラダイムシフトの背景や必要性を考察するための基礎的な作業を行った。 具体的には、まず、ドイツについては、現在に至るドイツの年金制度の特徴である、報酬比例保険料と報酬比例年金を基礎として賃金スライド制を導入し、貢献原則を徹底させた1957年の第一次年金改革の内容のレビューを行った。その上で、72年の第二次年金改革、さらに90年代以降の新たな次元の改革の出発点となった89年の年金改革の内容を時系列的にその基本的な特徴と制度の内容、目指した改革の方向性などを検証し、明らかにした。 日本については、同様に現在に至る被用者年金の給付と負担の基本構造を決定した1954年の新厚生年金保険法と、もう一つの柱であり日本の特徴である国民皆年金を実現した59年の国民年金法の制定時の経緯とそのあり方を巡る論争の検証を行い、その上で、この2つの制度を基礎として、両者の統合再編を実現した81年の基礎年金の導入の経緯とこれにより形成された日本の公的年金の2元的な基本枠組みの姿を明らかにした。 以上の日独両国における戦後半世紀に及ぶ公的年金制度の変遷の時系列的な比較分析を出発点として、1990年前後から世界的に生じてきた経済のグローバル化と雇用の流動化、人口の少子高齢化という共通の経済社会基盤の変化の中で、相次いで実施された両国の年金制度改革について、それぞれの政治経済社会的な背景と理念、具体的内容などのレビューを行った。その結果、両国の間では、公的年金の基本的性格や原理・構造の違いにもかかわらず、90年代以降の相次ぐ改革の理念と具体的方向性においては、保険料負担の限界がリードする給付水準の抑制ルール、支給開始年齢の引上げ、補完的な企業年金等の促進など、高い共通性を有することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度では、戦後半世紀かけて日独両国が到達したそれぞれの公的年金制度の基本理念や構造、それを具体化する給付と負担のルールの共通点と相違点を確認できた。具体的には、強い貢献原則を貫く報酬比例保険料と報酬比例年金を特徴とするドイツの年金制度と、一方で、国民皆年金の下で国民間の平等原則をより強く反映した、再分配機能の強い日本の基礎年金の基本構造とそこにいたる経緯や議論の検証・確認を行うことができた。 その上で、このような同じ公的年金とはいえ大きく異なる原理や仕組みを持つ両国の制度にもかかわらず、1990年前後以降に両国に共通して生じてきている経済社会環境の変化と、それを反映した新たな改革のパラダイムとその内容の概略の把握が予定通り実施できた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の2年目に当たる平成24年度においては、まず、基礎作業として、両国の年金改革においてパラダイムシフトを生み出した中心的な法律、具体的にはドイツの2004年の年金持続可能法と、奇しくも同じ年に日本で成立した年金改正法を中心にさらに詳細な分析を行い、導入された新たな理念や制度設計の枠組みの比較分析を進めるとともに、それらに共通する改革理念や手法を生み出した政治経済社会的な背景についても考察を深める。 その成果を踏まえた上で、ドイツへの訪問調査を実施し、年金制度・政策に関するドイツの専門の研究者や実務家との意見交換や資料入手を実施し、研究課題をさらに深く解明することとしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3年計画の中心的な位置づけとなる平成24年度においては、文献研究のためのドイツ連邦議会資料の継続講読や個別の専門文献の購入等の費用にも使用するが、研究費の中心的な使途は、ドイツへの訪問調査のための旅費と滞在費、現地での資料収集費が主なものとなると考えている。
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Research Products
(1 results)