2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530068
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
橋本 陽子 学習院大学, 法学部, 教授 (00292805)
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Keywords | 労働者概念 / 労働契約 |
Research Abstract |
平成24年度は、労働者概念の相対性ないし統一性について、法律学の概念論に基づく検討を行った。ドイツ法には、類型概念(Typusbegriff)という概念があり、労働者の概念は類型概念の典型であるという記述が文献にはしばしばみられるが、わが国では類型概念という確立した概念があるといえないので、類型概念について正確に理解し、これが労働者概念の明確化という本研究課題にどのような意味を持つのかについて、考察することを平成24年度の研究の目的とした。 まず、類型概念の意義について、ドイツの法解釈方法論における議論の展開を、マックス・ウェーバー、イェリネク、ヘンペル=オッペンハイム、ラートブルフ、ラレンツらの見解を整理した。現在のドイツ法学において、類型概念は、完全に下位の要素に分解できる階層概念(Klassenbegriff)と対比される形で、概念を構成する諸要素の有無ではなく、その程度を比較することによって得られる概念であると定義され、裁判官の柔軟な評価を可能にする概念であると解されている。 研究代表者は、類型概念の出発点となった、多様で個別的な現実の事象を一定の観点から整理した概念であるというウェーバーの理念型に遡り、類型概念の形成には、「一定の観点」から整理するという点で、目的論的な思考が入ることは否定できないが、現実の事象を分類する認識のための概念であることから、本質的に存在論的であると特徴づけた。そして、かかる類型概念の特質から、労働者概念の判断基準を法律ごとに完全に相対化することは不可能ではないかという知見を得るに至った。 以上の検討は、「『労働者』の概念形成―法解釈方法論における類型概念論を手掛かりとしてー」『菅野和夫先生古稀記念論集・労働法学の展望』有斐閣(2013年)29-48頁に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、労働者概念の特徴について、法律学の概念論を踏まえて、一応の研究成果をまとめることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、労働者概念の判断基準の明確化のために残された作業を進めていきたい。具体的には、1.民法における雇用契約と労働契約の関係、2.社会保障法等の労働法と隣接する法領域における労働者概念の検討、3.情報技術の進展および産業構造の変化に伴い、雇用形態の多様化が進み、伝統的な労働者像にあてはまらない就労者が増えているが、かかる就労者に対する保護の在り方の検討である。そして、これらの作業を踏まえた、労働者概念の定義および判断基準の策定である。 上記1~3の課題は、これまでも少しずつ検討を進めてきた事項であるが、平成24年度に労働者概念の特徴について考察を行うことで、少しずつこれらの個々の検討課題をつなぐ方向性が見えてきたので、労働者概念の明確化という本研究の目標に向けて、さらに一層の研究を進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献購入並びに資料収集・インタビューおよび関連するセミナー参加のための旅費等に支出することを計画している。
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