2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530087
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上山 泰 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (50336103)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 成年後見制度 / 多国籍 / 制限行為能力制度 / legal capacity / 障害者権利条約 |
Research Abstract |
平成23年度においては、本研究の大枠を確定するための基礎的調査研究を中心に実施した。具体的には、(1)わが国の現行制限行為能力制度に関する問題点の検証作業、(2)ドイツ世話法における能力制限制度(同意権留保制度)および自然的行為能力の分析作業、(3)国連における討議過程の分析を通じた、障害者権利条約12条の法的能力概念の理論的考察の3点について、重点的に研究を進めた。研究の実施方法としては、中核である国内外の文献調査に加えて、ドイツベルリン市でのフィールドワーク(現地の後見実施機関への訪問調査等)を行ったほか、7月にフランスリヨン市で開催された国際家族法学会に参加し、主に成年後見関連のワークショップ等に出席した。また、研究代表者が参加する2つの学際的研究会(障害法研究会、大原社会問題研究所「成年後見制度の新たなグランド・デザインプロジェクト」研究会)において、本研究と関連する報告を行った。 さらに、具体的な研究成果として、特に研究目的(1)に関するものを中心として、「日本における公的成年後見制度の導入について─ドイツの運用スキームを参考に」(大原社会問題研究所雑誌641号)、「3類型制度の課題」(赤沼康弘編『成年後見制度をめぐる諸問題』所収)、「任意後見契約の優越的地位の限界について」(筑波ロー・ジャーナル11号)と題する3本の論文を公表した。また、本研究に関連する研究報告として、先述の2つの研究会での報告に加えて、「成年被後見人違憲訴訟をめぐって-民法・成年後見法の立場から-」(障害者法プロジェクト(科学研究費基盤研究(A))公開研究会)、「任意後見契約と自己決定支援の概念上の関係性について」(ポスト構造改革における市場と社会の新たな秩序形成・平成23年度第6回エンフォースメント部門研究会(科学研究費・学術創成研究費))という2つの報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要でも触れたように、平成23年度の研究実施の対象として予定していた5項目のうち、(1)わが国の現行制限行為能力制度に関する問題点の検証作業、(2)ドイツ世話法における能力制限制度(同意権留保制度)および自然的行為能力の分析作業、(3)国連における討議過程の分析を通じた、障害者権利条約12条の法的能力概念の理論的考察の3点については、特に重点的に研究を実施し、今後の研究遂行のための基礎的調査研究として十分な成果を得ることができた。加えて、特に(1)との関係を中心に、具体的な研究成果として、3本の論文を公表したほか、関連する研究会等(公開研究会を含む)において、複数の口頭報告を実施したことで、社会に対して、積極的な研究成果の発信を行うことができた。 本年度の課題点としては、本年度の研究の重心を成年後見制度と関連した障害者の能力制限の観点に置いた関係上、わが国の現在の消費者法制における判断能力不十分者の位置づけに関する理論的分析作業の側面がやや手薄となったことがある。ただし、この点は、本来の研究計画においても、研究最終年度である平成25年度に重点的に研究を実施することが予定されていたため、3カ年の研究計画全体からいえば、特に計画実現に支障のある遅れとはいえず、本研究はおおむね順調に進展していると評価できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、本年度に得られた研究成果に基づいて、より制約性の少ない能力制限制度の構築可能性(現行の制限能力制度の縮減可能性)と、能力制限制度に完全に代置する仕組みの構想可能性(現行の制限行為能力制度の廃止可能性)の観点から、わが国の文化的・社会的背景にも適合した能力制限再構築の理論的検討に重心を置いて、本研究を進めていく。文献調査の対象としては、特に、(1)ドイツ法上の必要性の原則と補充性の原則という2つの基本理念がドイツ世話法の基本構造に与えている意義の理論的分析、(2)カナダアルバータ州等で採用されている意思決定支援制度の基本構造に関する理論的分析、(3)イギリス成年公健法における意思決定支援理念に関する理論的分析、(4)ドイツ世話法における障害者権利条約12条の受容状況に関する考察等を予定している。 また、わが国における制限行為能力制度の現状を分析するために、司法書士の専門職後見人団体である成年後見センター・リーガルサポートが実施する、法定後見人による取消権の行使状況に関するアンケート調査を活用して、わが国における成年被後見人らの能力制限に対する社会的ニーズの実態を解明する予定である(研究代表者は、リーガルサポートからの依頼を受け、調査票の作成に関与している)。 さらに、障害者権利条約の批准との関係で、近年、能力制限の問題を含む成年後見制度の改正が相次ぐヨーロッパの実情を観察するために、国内への情報の紹介の少ない中欧諸国を対象に海外調査を実施する予定である。 なお、平成25年度は、本研究の最終年度として、研究全体の総括を行うことを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度も主たる研究手法は国内外の文献調査によるため、関連領域の資料収集のために、物品費として、60万円を計上している。この主たる対象としては、第1に、国内外の成年後見制度に関する書籍および雑誌類である。なお、海外文献としては、特にドイツ、イギリス、カナダ、アメリカを想定しているが、平成24年度に予定している海外調査との関係で、スイス等の中欧諸国の文献についても、予算上可能な範囲で収集する予定である。第2に、障害者権利条約(特に同条約12条関連)に関する国内外の書籍および雑誌類である。特に、この関連では、同条約がドイツ世話法の能力制度の再改正論議に与えている影響を分析するために、ドイツ法関連の資料を重点的に収集する予定である。第3に、制限行為能力制度の代替システムとしての消費者法制に関する書籍および雑誌類である。この点については、EUの消費者法制について、広く基礎文献の収集を行う予定である。 次に、主として海外調査実施のために、30万円の旅費を計上している。平成24年度は、中欧諸国を中心にフィールドワークを行うことを予定しているが、予算上、可能であれば、フランスストラスブールのヨーロッパ人権裁判所への訪問調査(障害者権利条約12条をめぐる判決例に関する調査)や、ドイツの後見実施機関への補充調査等を実施することも考慮している。
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