2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530087
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上山 泰 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (50336103)
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Keywords | 成年後見制度 / 制限行為能力制度 / 法定代理権制度 / 障害者権利条約 / 意思決定支援 / legal capacity / 国際情報交換 / 多国籍 |
Research Abstract |
平成24年度は、本研究計画の最重要課題である国連障害者権利条約12条の射程について、集中的な調査研究を行ない、その成果を2本の論文で公表した。まず、条約の成立過程に着目し、国連の特別委員会における条約審議の内容を、議事要旨等の各種公表資料に基づいて詳細に分析し、①「代行決定から自己決定支援へのパラダイム転換」が12条の趣旨であること、②12条の下で、「行為能力の制限」と「法定代理権」をラストリゾートとして維持できるかについて、できる限り多数の国家からの批准を得るために、条文の文言上は、玉虫色の解決が行われたこと等を明らかとした。さらに、条約の運用レベルにおける12条の射程を探るために、①各国の批准時における留保・解釈宣言の内容の分析と、②国連障害者権利委員会による批准国に対する国際モニタリングの状況の分析を行い、権利条約成立時に締約国の政府代表が想定したよりも遙かに厳格に先のパラダイム転換が要求される傾向があり、制限行為能力制度や法定代理権の維持が、もはやラストリゾートとしてすら許されなくなる可能性が生じてきていることを指摘した。制限行為能力制度と法定代理権は、わが国の法定後見制度の中核的な保護手法であり、近い将来に予定されているわが国の権利条約批准にあたって、法定後見制度の再改正が必須となることを明らかにした点は、学術的にはもとより、わが国の法政策に対しても重要な意義がある。 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート制度改善委員会の協力要請を受けて関わってきた「取消権行使についてのアンケート」調査の結果がまとまり、公表された。特に成年後見類型では行使回数が非常に少ないことが判明した。 スイスのバーゼル及びベルンで海外調査を実施したほか、ストラスブールの欧州人権裁判所で審理を傍聴した。前者の成果として、現地の研究者に書き下ろしを依頼した論文を翻訳し、公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画の概要に示したとおり、平成24年度は、国連障害者権利条約12条の射程に関する分析について、2本の論文の公表を含めて、大きな成果を上げることができた。これにより、本研究計画の主眼である、わが国の法定後見制度における制限行為能力制度と同条との整合性について、重大な疑念があることが浮き彫りとなり、現行制度改正の必要性を明確に指摘することができた。加えて、この権利条約の分析を通じて、伝統的な他者決定型の仕組みである法定代理権制度を、自己決定支援型のいわゆる「支援付き意思決定(supported decision-making)」の仕組みへと転換させる必要が明らかとなり、条約の批准にあたって、わが国の現行法定後見制度の全面改正が要求されることを明示することができた。この点は、当初の研究計画の成果を超えるものである。 また、昨年度から継続している、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートとの協力による制限行為能力制度に基づく取消権の実効性調査については、非常に有益なデータを取得することができた。このデータについては、詳細に分析を進めて、論文として成果の公表をする予定である。 平成24年度は、海外調査についても、非常に有益な成果を上げることができた。2013年1月に施行された新成年後見制度(新スイス民法典)の調査のために、スイスを訪問し、同国の司法省の担当官や民法研究者等のヒアリングを行い、同国の新制度について知見を深めることができた。さらに、この訪問調査で学術交流を行った同国の研究者に新制度の紹介論文の執筆を依頼し、これを翻訳して公表した(ダニエル・ロッシュ「スイスにおける成年者保護法の改正」)。これは、わが国ではまだ紹介の少ない同国の新制度の概要を明らかにするものであり、比較法のための資料として重要な価値がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、本研究計画の完成年度であり、平成24年度までに得られた研究成果を含めて、本研究の総まとめを行うとともに、研究成果の社会への公表についても、いっそう尽力する予定である。 研究対象の主眼は、消費者保護法制の活用可能性に置く。すなわち、現行の制限行為能力制度による保護を、より一般的な消費者保護法制によって、どこまで代替できるかを考察していく。主たる研究手法は、日本とドイツの消費者法に関する文献研究を中心とするが、より広く、コモン・ロー圏を含めた諸国の最新の研究動向を知るために、平成25年7月にオーストラリアのシドニー大学で開催される第14回国際消費者法学会に参加する予定である。 また、行為能力に対する制約と障害者権利条約12条の関係性をより深く探るために、現在進行中のドイツの国際モニタリングの動向について分析を進める。特に、同国の「同意権留保」の仕組みについて、障害者権利委員会がいかなる指摘を行うかに注目する。この点については、年度内に発刊予定の論文集で、具体的な研究成果の一部を公表する予定である。 さらに、支援付き意思決定の仕組みの一種とされるグードマン(godman)の調査のために、スウェーデンでの海外調査を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度も主たる研究手法は、国内外の文献調査によるために、研究費の主要な使途は、関連領域の資料収集に要する物品費となる。平成25年度は、消費者保護法制の活用可能性に研究の焦点を置くため、EU圏内、特にドイツの消費者法に関連した文献資料を収集する予定である。加えて、ドイツの制限行為能力制度である同意権留保の仕組みを研究するために、関連するドイツ民法の資料を引き続き収集していく。さらに、平成24年度の現地調査で知見を深めたスイスの新成年後見制度について、研究成果の公表に向けて、資料の追加収集を進める予定である。 また、海外旅費として、一定の支出を予定している。既述のように、平成25年度は、国際消費者法学会出席のためのオーストラリア出張と、海外調査のためのスウェーデン出張を予定しているが、旅費については残額予算にかなり制約があるため、いずれか一方の出張費に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)