2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530088
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木村 真生子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (40580494)
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Keywords | カナダ |
Research Abstract |
本年度の研究計画の最大のテーマの1つは文献収集にあった。まず、前年度末に行ったビクトリア大学での調査を下に、主要な体系書の収集をほぼ完了したことである。また、平成24年7月下旬のトロント出張では、本研究にとって大変重要なKimber Reportを公共図書館で入手した。さらに、トロント大学では、データ・ベースを使用して豊富な文献の収集を行い、貴重な資料の複製も行った。データ・ベースを利用した文献収集等は、翌年3月下旬にも同大学において行った。現在わが国で入手可能なカナダ法に関する資料は大変限られているために、本年度に実施した文献収集は大変有意義なものとなった。 しかし文献収集を通じて、3年という短期間のうちに本研究を終了することは大変困難を極めることを認識するに至った。なぜならば、本研究の遂行にあたっては、カナダ法に関する基礎的な知識の習得やリーガル・リサーチ方法を習得することが前提となるばかりでなく、わが国の母法があるアメリカと異なり、カナダは統一した証券法を有しておらず、各州で異なる証券法を有しているからである。証券法の全体像がつかめたとしても、カナダではさらに会社法、刑法、自主規制を通じて幅広くインサイダー取引を規制しており、判例法の理解も必須となる。 そこで、遅くとも所与の研究期間終了後1年以内には一定の研究成果を論文として公表できるように論文の執筆計画を立てた。すなわち序章では、規制の全体像と立法時の議論の状況を明らかにし、その後、合法的なインサイダー取引規制および非合法的なインサイダー取引規制の分析・検討を行い、後者については会社法及び刑法における規制の仕組みを明らかにする。さらに、エンフォースメントとしての民事責任規定についての分析・検討を行い、全体をまとめる。本年度については計画に従い、2本の論文を公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献収集については、カナダ証券法、とりわけインサイダー取引関して現在入手できる文献は概ね収集することができたと思われる。しかし会社法については一定の文献収集にとどまり、刑法分野の文献収集はほとんど行っていない。 本研究の遂行にあたっては、取り扱う資料が主に外国語文献となるため、文献の読み込みには一定の時間を要する。しかし本年度は本研究に避けるすべての時間を使い、まず、カナダにおけるリーガル・リサーチの基礎的な部分を習得し、次に証券法規制の枠組みを理解した。次に、今後の研究の方針を立てるうえでも重要になる、カナダのインサイダー取引規制の全体像を掴んだ。規制の法的枠組みについては、筑波ロー・ジャーナル(紀要)12号において紹介し、同論文では、Kimber Reportの読み込みを通じて得た立法時の議論の状況を明らかにした。 続いて筑波ロー・ジャーナル13号では、「合法的なインサイダー取引の規制」について論じた。カナダでは一定のインサイダー取引が合法的なものとして認められている。合法的なインサイダー取引とは何か、またそれがどのように規制されているのかを明らかにした。とくに、カナダでは短期売買差益返還制度とは無関係に内部者取引報告制度が存在していること突き止め、その理由を丁寧に検証したことは有意義であったと思われる。アメリカの制度である短期売買差益返還制度は、本国でもその存在意義について疑問が呈されているところ、わが国にもおいても学説で批判がある中でなお現存するものであり、今後、同制度の存在意義や実効性について再考することが必要であるように思われるからである。 このように、本研究の前提となる研究手法の調査から研究を進めているため、当初の計画よりも若干の遅れはあるが、これは丁寧な分析を心掛けているための結果であり、概ね研究は順調に進んでいるものと思料する。
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Strategy for Future Research Activity |
筑波ロー・ジャーナル13号で論じた合法的なインサイダー取引規制については、制度の実効性に関する論点が未検証である。このため、まずは複数の実証研究の結果を分析し、現行の規制の問題点を明らかにしてまとめたい。 次に、本研究で最も重要な位置を占めている「非合法的なインサイダー取引の規制」についての研究に移る。この領域については、制定法のみならず、判例および学説の分析が中心になる。多数の判例が存在するが、分析すべき主要な判例についてはすでにその選定を終えているため、主要な争点となるMaterialityの概念の分析に時間を割きたい。もっとも判例分析では、その他の争点についても整理を行う予定である。その後、Tippingに関する制定法の規制と関連する判例の分析に着手する。以上については、次号の紀要において研究成果を公表したいと考えている。 その後、本年度は後半で、会社法におけるインサイダー取引規制の分析に着手する。しかし会社法に関する研究資料の収集がまだ不十分であるため、本年度の前半が終わるまでにカナダへ赴き、まずは資料収集を行っておく。そして本年度後半において、当該資料の分析を行い、一定の成果を本年度末に論文として公表したい。 なお、刑法におけるインサイダー取引規制の状況および民事責任規定については、エフォート率との関係で今年度中に研究を終えることが難しいと現段階では想定している。このため、研究期間満了後も引き続き研究を行うために、本年度末に再びカナダに赴き、ある程度必要な資料を収集と、収集すべき文献のリストを作成する予定である。当該資料の分析を終え、その成果をまとめたあとで、本研究の全体を通じていかなる示唆を得たのかを明らかにし、そのうえでわが国のインサイダー取引規制の再構築に向けた一定の提言を行いたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献収集費として全体の4割程度を想定している。なお、文献収集費には本年度未使用となった52,954円を合わせて使用する予定である。本年度若干の残金が発生したのは、購入を予定していた文献の一部を次年度に購入することとしたからである。次年度は、証券法分野で新たに出版された文献をさらに収集するとともに、文献収集が不十分である会社法及び刑法関係の資料収集を行いたい。 残りの6割はカナダ(トロント、場合によってはバンクーバー)での現地調査にかかる費用(渡航費および滞在費ならびに現地での交通費)として使用する予定である。もっとも、今後の為替レートの動向次第では、文献収集のために予想外の費用が発生する可能性もあるため(研究計画時より20%程度為替レートが上昇している)、現地調査の回数を縮減するか、滞在日数を調整する必要もあると考えている。 なお、自主規制については現在も動きがあるため、その状況把握のために通信費等の一定の費用が発生する可能性がある。この費用については、現地調査用の予算の中から捻出しなければならないと考えている。
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