2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530107
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
岡 孝 学習院大学, 法学部, 教授 (10125081)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流:中国、韓国、台湾 / 国際情報交流:ドイツ、オーストリア |
Research Abstract |
(1)調査対象の変更 3.11東日本大震災・福島原発事故で南相馬市から避難してきた両親(88歳)の世話の関係もあり、平成23年度は東アジア諸国の調査をすることにした。(2)韓国調査・研究の成果 12月にソウルで、仁荷大学の朴仁煥副教授らからインタビューした。のちに、朴仁煥「韓国の新成年後見制度の成立と課題」東洋文化研究14号(2012年3月刊)の形に結実した。とくに、韓国では、任意後見においても任意後見人による医療行為の代諾が可能だということがわかった点は大きな成果の1つである。日本では消極的であるが、改めて検討したいと思っている。もう1点、国連障害者権利条約との関係で、後見類型の場合に一律行為能力を制限していいかどうかも問題視されていることを知り、日本法再検討の新たな資格を得ることができた。(3)中国調査・研究の成果 9月に青島で研究会を行い、成年後見制度を整備するために、一元論か類型論か、職権主義か申立主義かなどの論点を整理した基調報告を行った。その結果、山東大学申政武教授、浙江工商大学張学軍醇教授らが成年監護制度試案を起草し、平成24年度に検討することになった。交付申請書の「研究の目的」にも書いた私的な法整備支援が一歩前進したことは評価できる。また、11月には済南で中国老人権益保護法の改正作業に関するシンポジウムに出席し(これは内務部の管轄)、中国がこれからも当分の間、家族で高齢者を支援する体制を維持する方向性を見て取ることができた(別居している成年の子は、月に1回は両親を見舞わねばならないという規定を盛り込もうとしているようである)。中国の成年監護制度起草に当たっては、このような中国政府なり社会の考え方を考慮すべきだということを認識できた点は、有益であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)予定を変更して東アジアの調査を行った。(2)韓国については、2011年に成立した成年後見制度について(施行派2013年7月)、海外研究協力者の朴仁煥氏の論文により、日韓の制度の相違点を理解することができた。例えば、任意後見契約で医療行為の代諾を盛り込むことができるかという問題がある。韓国ではそれが可能のようであるが、日本では消極的に考えられている。この点は次年度公証役場で調査して、本当に可能性がないのかどうかを検討し、現在の実務では無理だとするならば、(公正証書の)書式変更の主張を行いたいと考えている。(3)中国については、私の基調報告(9月の青島会議)に基づいて成年監護制度試案を起草することが認められた。本研究の目的の1つに私的な法整備支援をあげているが、それが現実化の方向に向かって進み始めたわけである。(4)近時「小さな成年後見」を標榜する論者が登場している。成年後見人等はきめ細かい身上看護を行うべきだという。この主張は、2008年に発効した障害者権利条約(日本はまだ批准していない)の方向性と似ているようである。この条約のもとでは、成年被後見人が行為能力を制限されている点を問題になるようで、いずれ日本の成年後見制度の改正の議論につながるであろう。私は、韓国新法の検討で、韓国の成年後見類型では家裁が(日民9条ただし書以外に)後見人の同意を不要とする行為を定めることができるという点に、打開策の1つを見いだしている(もちろん、立法論となろうが)。さらには、日民13条2項によれば、被保佐人の個々の状況に応じて家裁が要同意事項を増やすことができるとされており、さらには少数説(須永醇教授)によると、補助類型の発動を促さない程度に13条1項の要同意事項を減らすこともまた可能だという。このような解釈論によって、保佐類型は上記条約と整合性を保つことができるのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)今年度予定したドイツ・オーストリアの調査は、私の勤務校の事情によりできなくなった(2013年度に行う)。そこで、次のように予定を変更する。(2)中国の成年監護制度試案について、中国側と協議して完成させたい。すでにメール等のやりとりで、第1稿は入手したが、いくつか問題がある。とりわけ、起草者グループで日韓をモデルにするか、英米法をモデルにするかで対立が生じ、それを調整することは著しく困難だということが判明した。そこで、妥協案として2つの試案を作成することにした。当面、私は日韓をモデルにしている山東大学グループを支援していきたい。このグループでは、医療行為の代諾については格別考えていないようだが、中国の社会事項を考慮しつつ、また、韓国側の研究者とも協力しながら、裁判所の負担加重にならないような代打区に対する家裁の許可制度が可能かどうか、検討したい。このような作業のためには、中国に行き、また、中国人研究者を日本に招聘して集中して研究会が必要であり(当然通訳者も同行させる必要がある)、それなりの旅費・通訳代等が必要である。(3)「小さな成年後見」を主張している菅富美枝氏(法政大学)、上山泰氏(筑波大学)の両氏を招いて、家裁の負担加重なり国家予算の制約からその主張が現実的であるかどうかを確かめたい。また、障害者権利条約に関する専門化を招いて、現行の成年後見制度は改正せざるを得ないのか、改正するならばどの添加について教示を受けたい。その際、保佐類型については解釈論で対応できないかどうかも確かめたい。(4)できるだけ多くの機会を捉えて、後見業務に従事している司法書士などにインタビューし、現行法の問題点を掘り起こし、私の考える解決策について議論したい。とりわけ、任意後見受任者が見守り契約のまま任意後見監督人の選任申立をしないことに対する解決策を検討していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)上述の通り、2012年度の最大のテーマは、日本法の問題点も解決できるような中国成年監護制度試案の完成である。すでに、2013年6月の比較法学会のミニシンポジウムで、「東アジアにおける成年後見制度の比較」(仮題)というテーマでこの試案を発表する予定である。そのために、私が中国に行き、あるいは中国から研究者を招聘して、試案の完成を目指したい。その際、韓国側の周辺法整備の状況なども参考にしながら制度構築を考えたいので、韓国人研究者の招聘も予定したい。このように、2012年度は、旅費がかなりかかるであろう。それに伴って、韓国語・中国語の通訳代・翻訳代も計上したい。(2)台湾では2009年末から新成年監護制度が実施されている。研究者を見つけることができないでいるが、せめて法務部で施行状況を調査することは可能であろう。とりわけ、申立権者には四親等外の親族でも最近1年間に同居していた者も含まれるが、現実にこのような申立がなされているかどうかも調査したい。(3)2013年度(本研究の最終年度)にはドイツ・オーストリアの調査を予定しており、事前の調査として書籍等の購入費もかかるであろう。現地調査のポイントは、以下の通りである。まず、成年後見についての国家(あるいは地方自治体)の予算をどのように切り詰めているのか。つぎに、後見人による医療行為の代諾は現実に行われているのか。さらには、後見人の不足を解消する切り札として、日本では「市民後見人」構想がいわれ、現実に活動もしている。この構想はドイツ、オーストリアに依拠しているといわれているが、本当にそうなのか。また、近時両国ともに任意後見制度も整備しつつあるといわれているが、その実態はどうなのかといった事柄である。日本でもかなり文献が出ているようであるので、2012年度はもっぱら文献調査を行いたい。そのための書籍購入代も必要である。
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Research Products
(3 results)