2011 Fiscal Year Research-status Report
金融商品取引法制におけるエンフォースメントの整合性
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23530116
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Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
瀬谷 ゆり子 桃山学院大学, 法学部, 教授 (00226680)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 金融商品取引規制 / 緊急差止め命令 / injunction |
Research Abstract |
金融商品取引法制の遵守のために、現行制度は既に行われた違法行為に対して罰則や課徴金制度をおくことで抑止効果をねらっている。そこで、当初、罰則と課徴金に焦点を当てて両者の差異を検討しつつ抑止効果の実効性を考えることとしていた。しかし実際に金融商品取引法違反行為が行われてしまった場合に生ずる損失の広がりが大きいことを踏まえ、事前規制が可能であればその可能性を検討すべきではないか、と考えた。おりしも、平成20年から段階的に実施された金融商品取引法改正により、裁判所に対する緊急差止め命令の申立に関する規定の実効性が増し、これに押される形で、平成22年末から、未公開株の販売等を行った無登録業者に対して、証券取引等監視委員会が裁判所に対して緊急差止め命令の申立を複数件行い、裁判所はこれらを認める判断を下している。そこで、事前抑止型のエンフォースメントとして、平成23年度はこの緊急差止め命令について検討することとした。 法改正の経緯及び判例の検討を含めて、平成23年12月3日に、立命館大学商法研究会において、「金融商品取引法における緊急差止め命令」というテーマで研究報告を行った。 さらに、この報告を基に、制度自体の立法趣旨および比較法的な検証を行い、併せて執筆までに実施された証券取引等監視委員会による緊急差止め命令の申立、及びそれに対する裁判所の判断を検討してまとめた論説を龍谷法学に投稿し、掲載された。「金融商品取引法制の予防的規制ー緊急差止め命令」龍谷法学44巻4号339~363頁(2012年3月)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
裁判所に申し立てる緊急差止め命令の制度は、従来利用されたことがなかった。しかし法制度の改正で申立が容易になり、平成22年末に初めて申立が行われてから続いて数件の申立があり、それらはいずれも裁判所により認容されている。これにより、わが国における予防型エンフォースメントにかかる裁判例としてその分析が可能となった。そのため、当初、この部分については、外国の判例とりわけアメリカ法を分析するほか事例がないと考えていたが、国内の事例として検討することになった。したがって、制度だけでなく具体例としての分析が可能となり、その限りで充実したものとなったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は、予防型のエンフォースメントとして、裁判所による緊急差止め命令の制度についての検討を行った。もっとも、金融商品取引法には、金融庁・証券取引等監視委員会による行政処分としての業務停止命令の制度がある。ところが、裁判所による緊急差止め命令の対象を検討する過程で、裁判所への申立を経るものと行政処分として行政庁限りで行われる業務停止命令について、両者を区分することの議論が不十分であると感じた。そこで、平成24年度は、まず、引き続き予防型のエンフォースメントとして、行政処分としての業務停止命令について、アメリカ法における実体を調べる予定である。 さらに、23年金融商品取引法改正で導入された「無登録業者による取引を無効とする制度」を踏まえ、法体系として取締法規に私法上の効力を付与するという形で、エンフォースメントをはかる手法について検討することとしたい。 これらの分析・検討について、適宜、研究会で報告し内容の精査をはかっていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在、課題に関係する研究会(早稲田大学GCOE金融商品取引法研究会)が東京で定期的に開催されている。同研究会では、金融商品取引法改正にかかる検討も継続的に行っているため、当該研究会に定期的に参加して法改正の最新の情報を共有するとともに、専門の研究者から、課題に関する研究上の示唆を得たいと考えている。 従って、金融商品取引法に関する日米の書籍購入のほかに、東京・大阪間の出張旅費を計上する予定である。
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