2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530118
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Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
福本 葵 帝塚山大学, 法学部, 教授 (40388880)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | コーポレート・ガバナンス / 隠れた株主 / 名義上の株主 / ドッド・フランク法 / 議決権行使 |
Research Abstract |
本年度は、日本および比較対象国であるアメリカのコーポレート・ガバナンスについての研究を行った。具体的には、まず日本において、「信用取引における議決権行使」をテーマに取り上げた。信用取引制度は、顧客が証券会社または証券金融会社から株式の買付資金または売付株式を借りて売買を行い、所定の期限内に弁済する取引である。買付株式は、顧客の買付委託をした証券会社が買付株式の代金支払請求権を担保するために占有する。買付株式の株主名簿上の株主は、買付者ではなく、証券会社または証券金融会社となっている。 買付者が議決権を行使するためには、株主総会の基準日までに信用取引の買付株式を現引きし、自己の名義に書き換えなければならない。これまで、議決権を行使したいとする買付者はこの現引きを行っていたため、信用取引の議決権については、俎上に載せられなかった。2011年12月に起きた事例は、買付者が現引きをしなかったため、証券会社が代わって議決権を行使するのか、できるのか、そもそも信用取引とは何か、信用取引における買付株式の法的性質は何か、更に、信用取引の買付者に議決権はあるのか、名義上の株主である証券会社等は顧客に代わって議決権行使できるのかの問題を提起するものとなった。本年度の研究では、これらの問題点についての研究・考察を行った。 また、アメリカにおいては、2010年7月、ドッド・フランク法が成立した。その主な内容は金融危機の再発防止を目的としたものであるが、この中に市場の信頼回復に向けてコーポレート・ガバナンスの改善が不可欠であるとして投資者保護規定が盛り込まれた。本年度の研究では、ドッド・フランク法にあるコーポレート・ガバナンス規定を研究した。特に役員報酬に対する拘束力のない投票権を株主に付与するsay on pay、役員選任の株主提案を認めるproxy accessを中心に研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、隠れた株主が議決権行使できるかという問題について、信用取引の買付者による議決権行使は可能かという問題を取り上げた。信用取引における買付者は、買付株式を現引きし、株主総会の基準日までに自己名義に書き換えればよい。現引きとは、他から金銭を調達、または自らの手持資金を用いて、証券会社に当該金銭債務を返還することによって、担保となっている買付け株式を受け取ることをいう。ところが、2011年12月に発生した事例は、買付者が現引きをせず、また、株主名簿上の株主である証券会社が議決権行使をしなかった。この事例は、これまで俎上に載せられなかった「信用取引の議決権行使」についての問題を提起した。現在までの研究では、そもそも信用取引とは何か、買付株券の法的性質は何か、買付者は議決権行使できるか、名義上の株主はできるか等の問題を研究した。 しかし、この問題は日本におけるコーポレート・ガバナンスの問題のほんの一部に過ぎない。現在、「会社法制見直しに関する中間試案」が提出され、会社法改正の議論が高まっている。この中には、まさに「企業統治の在り方」として、社外取締役選任を義務付けたり、監査役の監査機能を強化したりとまさにコーポレート・ガバナンスに関する規定がほとんどである。これらについては、研究が及んでいない 一方、アメリカのドッド・フランク法にどのようなコーポレート・ガバナンス規定が盛り込まれたか、その歴史的背景、法律成立後のSEC規則の改正、訴訟の提起などの一連の流れについては、研究が進展した。 従って、現在までの研究の達成度は、概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
先に述べたように、今後、日本の制度については、「会社法制の見直しに関する中間試案」に述べられているコーポレート・ガバナンス規定について、研究し、その中から隠れた株主の議決権行使と関連する問題を探ってゆきたい。 また、アメリカにおいても、ドッド・フランク法以降の状況について、資料収集、インタビューなどを通じて、引き続き同じテーマで研究を継続する予定である。このためには、海外出張も行う。更に、国内、外資系のIR会社、議決権行使助言会社、コンサルタント、日本証券業協会、東京証券取引所、日本証券経済研究所に赴き、資料収集、インタビュー等を重ねていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
先に述べた研究の推進方法を実行するために、アメリカへの海外出張、複数回に渡る東京等への国内出張を行う予定である。また、取り寄せ可能な資料の収集、関連テーマに関する書籍の購入などに研究費を使用する予定である。また、資料をまとめるためのPCや印刷機などの備品を購入したい。
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