2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530132
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
高野 一彦 関西大学, 社会安全学部, 准教授 (40553128)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 個人情報保護 / プライバシー / マイナンバー / プライバシーコミッショナー / EUデータ保護指令 / 情報法コンプライアンス |
Research Abstract |
本研究ではまず、EUデータ保護指令とわが国の個人情報保護法の比較を行い、独自にわが国の保護の十分性を検討した。(1)民間部門及び公的部門の双方を対象とする独立監視機関が存在しない事、(2)開示請求を出訴可能権として規定していないこと、(3)思想・信条等の特別なカテゴリーの情報処理を制限していないこと、などが不十分性の主要な論点であろうと評価した。特に監視機関の独立性に関しては保護の十分性の重要な要件であると考えられるため、英国のインフォメーションコミッショナー、カナダのプライバシーコミッショナー制度などに関する文献調査、及びカナダ・オンタリオ州Information and Privacy CommissionerのAnn Cavoukian博士他への制度設計と運用に関するインタビュー調査を行った。そのう上で次のような機会を捉えて、研究成果としての監視機関の制度設計に関する提言を積極的に行った。すなわち、本学経済・政治研究所主催の産業セミナー(平成23年5月16日・於尚文館)での報告、平成23年6月14日産経新聞朝刊21面での論考「国際的に自由な情報流通のために」の公表、筆者が研究代表を務める堀部政男情報法研究会主催の2回のシンポジウム(平成23年7月30日・於関大東京センター、平成24年3月11日・於学術総合センタ―)の開催、同研究会主催により内閣官房の立法担当官3名を交えての番号法案起草に関する研究会(平成23年6月17日・於商工会館)などである。このような研究成果の提言が多少なりとも奏功してか、現在はマイナンバー法案として、国家行政組織法基づく三条委員会としての第三者機関の設立が規定され、平成24年2月14日に閣議決定し、本年度通常国会で審議される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、欧米諸国の情報法制と企業活動に関する比較研究を行い、欧米諸国より30年程遅れていると評される、わが国の個人情報・プライバシー保護法制の立法・改正を提言することにある。平成23年度は、わが国の情報法制の大きな転換点となった。社会保障・税制度改革の一環としてマイナンバー法が通常国会に提出され、同法において第三者機関が設立されることとなった。同法は、個人情報保護法の特別法として位置付くため、同法による第三者機関は「マイナンバー」の監視機関であるということのみならず、将来、プライバシー保護法が定立された場合の主管機関となり、またプライバシー保護法が定立された際の独立監視機関となる可能性が高い。したがって、同法に基づく第三者機関は、EUデータ保護指令における「プライバシー保護の十分性」の重要な要件のひとつである独立監視機関に発展する可能性がある。組織は創設されると、その後の改変は容易ではないことから、マイナンバー法に基づく第三者機関の制度設計に「独立性」要件を強く求めるべきであると判断した。そこで、カナダ・オンタリオ州プライバシー・インフォメーション・コミッショナーであるアン・カブキアン博士を訪問し、監視機関の人事・予算・執行状況などのヒアリングを行い、また、同コミッショナーの監督を受けて構築した匿名医療情報データベースを運用するChildren's Hospital of Eastern Ontario Research Institute(CHEO)の Emam博士、Kids Media CenterのMs.Gordonを訪問し、コミッショナーの指導と監査の具体的状況をヒアリングし、実態の把握に努めた。これらの調査・研究成果から、わが国のマイナンバー法案における第三者機関の制度設計に関する提言を行い、その成果がある意味結実したことは評価に値すると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年、マイナンバー法における第三者機関の設立準備が本格的に始まることとなる。また、厚生労働省は現在、次年度通常国会の提出を目指し、「医療分野の個人情報の保護に関する法律案(仮称)」の準備をすすめている。しかしながら現行の個人情報保護3法(個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政機関個人情報保護法)は上記以外にも大きな課題を抱えており、新たなプライバシー保護法の定立と、現行の個人情報保護3法・ガイドライン・条例・プライバシーマーク制度および個人情報保護審査会などの情報法制全体の整理・見直しが必要であろう。本年度も引き続き本研究を継続し、欧米諸国の法制を比較研究し、わが国の新たなプライバシー保護法制を提言を行うとともに、新法制に対応する企業のコンプライアンス体制の提言を行う。欧米諸国の法制度の比較研究は、アメリカ合衆国のセーフハーバーやイギリス(マン島、ジャージーなど)などEUによって保護の十分性が認められた国・地域はさることながら、2000年に申請を行い認められなかったオーストラリアの法制度の調査を行い、公開されていない、第29条委員会における十分性評価の基準を探求するとともに、改正が検討されているEUデータ保護指令の行方について、欧州連合本部へのヒアリングから探求を行う。また、国内の大手企業に関して22業種(社)のヒアリングにより、情報マネジメント体制や危機管理体制に関する調査研究を行い、企業の情報マネジメントシステムの現状の課題を抽出し、新たなコンプライアンス体制の提言を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度、「キャノン EOS7」を本科研費により購入予定であったが、本学演習で使用する必要があることから学内費用でこれを購入したため、86,014円を次年度繰越金とした。したがって、平成24年度は本繰越金を含めた予算にて研究費の使用計画を以下のとおり立案した。平成24年度は、保護の十分性が認められた欧州諸国の法制度およびプライバシーコミッショナーの制度(人事・予算・執行状況など)に関する現地調査と行うとともに、並行してわが国の企業のマネジメント・システムおよび危機管理体制の事態調査を行う。その上で研究会・シンポジウムでこれら研究成果の公表を積極的に行う予定である。これに伴い、欧州諸国の法制度調査のための出張旅費および現地コーディネーターへの謝礼、並びにわが国の企業の実態調査および研究会・シンポジウム参加のための国内出張旅費として本研究費を使用する予定である。なお、研究成果の公表は、私が研究代表を務める堀部政男情報法研究会主催の2回の公開シンポジウムで報告し、また私が主催する「コンプライアンス担当者のための法令研究会(BERC、上場企業を中心に50社(名)が参加)」において具体的なマネジメントシステムの設計に関する指導を行う。
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