2012 Fiscal Year Research-status Report
中国の民主化運動に関する考察 - 「右派」の視点から
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23530139
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
赤倉 泉 山形大学, 人文学部, 准教授 (70292399)
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Keywords | 中華人民共和国 / 民主化 / 反右派闘争 / 自由化 |
Research Abstract |
研究内容:(1)前年度に引き続き、反右派闘争の実態解明を行った。2012年秋に中国・北京で資料収集を行い、多数の資料を入手したことを受け、これまでの成果をさらに充実させた。 (2)鄧小平時代の民主化、自由化の動向について考察した。1957年における議論の論点(表現・言論の自由、非共産党員の政治参加等)との比較検討を行った。 意義・重要性:(1)反右派闘争に関する研究を深めることができた。中国では、反右派闘争をめぐる最高指導者層の動きといった核心的な資料は入手不可である。しかし昨年秋の訪中により、学術論文や回顧録等の資料が予想外に多いことが判明した。日本や欧米の中国研究ではまだ取り上げられていないこれらの文献を利用することにより、数多くの新事実を盛り込むことができた。 (2)鄧小平時代の民主化運動は、1957年との共通点が非常に多い。共産党の一党支配に起因する核心的な論点については、ほぼ同じであることが確認された。このことから、一党支配下において「上から」の自由化が不可避となる理由、「上から」の自由化が「下から」の民主化要求をもたらすプロセスが明らかになり、1957年が中国の民主化運動の原型であることが裏付けられた。一方、相違点も大きい。鄧小平時代は政治体制改革が不可避であり、当局は民主化要求を封じ込めつつも、制度改革を前進させてきた。その結果、中国共産党員、すなわち体制内の改革派と非共産党員の民主化要求が同じ方向を目指すケースが生じ、この要素が鄧小平時代の民主化運動の中核を形成していることが明らかになった。また、権利意識に目覚めた国民の増加によって一党支配への不満も増大し、インターネット利用者の拡大は共産党の関与できない政治的空間の拡大をもたらしている。これらの変化が現在の民主化要求運動のアクターを多様化させる可能性があることも示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・1957年と鄧小平時代の民主化運動の比較を行ったが、一党支配下における政治的民主化の限界、という当初の目的については、まだ不十分であり、さらなる考察を要する。 ・北京への調査旅行により、反右派闘争関連の資料を大量に入手し、予想外の成果を得たものの、研究計画全体として遅れが生じる結果となった。 ・これまでの研究成果を論文の形で発表することができなかったことは非常に残念である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)これまでの研究成果を論文にまとめて公表する。(①反右派闘争の手続きについて、②反右派闘争の全体像について、③民主化運動の原点としての1957年について、など) (2)鄧小平時代における自由化、民主化の動向をさらに考察する。共産党内の改革派と非共産党員の知識人のネットワークに着目し、毛沢東時代に「右派」とされた人々との関連を明らかにする。 (3)1956-57年に起こった自由化、民主化の流れは、その後の民主化運動の原点である。また、自由化の流れを言論弾圧で断ち切った反右派闘争は、中国共産党の一党支配下における政治的民主化の限界を示す好例である。この意味で、「右派」とされた人々の主張は、現在の中国政治にとってもいまなお、大きな影響力を持っている。今後は、「右派」とされた人々が、鄧小平時代以降、自由化や民主化の動きにどのようにかかわってきたのか、明らかにする。 (4)もと「右派」たちは、損害賠償請求の訴訟を起こしているが、過去の政治運動の犠牲者がこのような行動を起こすのは極めて異例である。今後はこの動向を探り、どのような含意があるのか考察していきたい。 (5)「右派」の視点から反右派闘争から現在までの民主化運動の状況を考察し、本研究の総括を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度には調査旅行を行ったが、平成23年度分の調査旅費が持ち越された形になっているので、次年度に調査旅行を行いたい。それ以外の研究費については、当初予定通りの使用を計画している。
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