2011 Fiscal Year Research-status Report
初期近代イギリスにおける実践哲学の形成―政治的賢慮概念をめぐって―
Project/Area Number |
23530145
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
岸本 広司 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (20186216)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 初期近代イギリス / 政治思想史 / 実践哲学 / 政治的賢慮 / ウィリアム・テンプル |
Research Abstract |
本研究は、初期近代イギリスにおいて実践哲学がどのように形成されたかを、ウィリアム・テンプルやハリファクス侯の政治的賢慮概念の分析を通して明らかにする。すなわち、倫理的・政治的叡知としての「賢慮」(phronesis;prudence)を実践哲学の要諦として捉えて、賢慮と中庸・経験・常識・趣味・想像力・庭園様式などとの概念的連関性を、歴史的コンテクストを重視しながら解明することを目的とする。 この研究目的を達成するために、平成23年度は、まず政治パンフレット・回想録・議会議事録等の第一次資料を収集するとともに、イギリス政治史・政治思想史等の関係図書の入手に努めた。以上の準備を経たうえで、学説や資料の整理を行い、問題点を明確にして研究を具体的に進めた。 イギリスで実践哲学が形成されたのは王政復古と名誉革命の両体制期においてであるが、まずこの時代の政治的・社会的・文化的特性を探り、賢慮に基づく政治が必要とされた条件を検討した。次いで、本研究の主要な分析対象であるテンプルの政治理念を取り上げ、彼の政治的賢慮概念が中庸・経験・常識などといかなる概念的連関性を有しているかを、テンプルの思想の形成過程をたどりながら考察した。17世紀は国家論の隆盛を見た時代である。しかしテンプルは、ホッブズにおけるような幾何学的推論に基づく抽象的な政治理論を退け、経験と常識を基調とする穏健で賢明な統治のあり方を模索した。具体的な研究成果の発表にはいたらなかったが、研究者はこうしたテンプルにおける実践哲学が青年時代に胚胎し形成されていたことを解明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた第一次資料の収集と関係図書の入手はいまだ十分ではないものの、現有のものや新たに入手しえた資料等を通して問題点を明確にすることができた。また、ウィリアム・テンプルの実践哲学の形成過程の解明も進んでおり、研究の目的はおおむね順調に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き第一次資料や関係図書の収集に努めながら、これまでに得られた研究成果を踏まえて、初期近代イギリスにおいて実践哲学がどのように形成されたかを考察する。具体的には、ウィリアム・テンプルやハリファックス侯のパンフレット・議会演説・書簡・日記等のテクスト、たとえば、Observations upon the United Providences; An Essay upon Ancient and Modern Learning; The Character of a Trimmer; Maxims of Stateなどの分析を通して研究課題を遂行する。研究の成果は、『岡山大学法学会雑誌』などの学術誌に論文として公表する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していた資料収集のための出張を、諸般の事情から十分に行うことができなかった。そのため次年度使用予定の研究費が生じたが、次年度の研究費の使用計画としては、政治パンフレット・議会議事録等の歴史的文書やイギリス政治史・政治思想史・美学史・庭園史等の関係図書の購入、資料収集のための出張旅費、出張の際に必要なノート型パソコンの購入費等に充てる予定である。
|