2012 Fiscal Year Research-status Report
初期近代イギリスにおける実践哲学の形成―政治的賢慮概念をめぐって―
Project/Area Number |
23530145
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
岸本 広司 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (20186216)
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Keywords | 初期近代イギリス / 政治思想史 / 実践哲学 / 政治的賢慮 / ウィリアム・テンプル / ハリファクス侯 |
Research Abstract |
本研究は、初期近代イギリスにおける実践哲学の形成を明らかにすることを目的としている。研究2年目にあたる平成24年度は、前年度に引き続いて関係図書の収集に努めながら、W・テンプルとハリファクス候の思想形成を考察した。特に、極端を嫌って中庸の徳や文明の作法を重視したテンプルの実践哲学がどのように形成されたのかを、幼年期から青年期までに受けた教育、なかんずく宗教教育や音楽教育、寛容思想を中心とするケンブリッジ・プラトニズムの影響、ヨーロッパ諸国へのグランド・ツアー等を考察することによって明らかにした。研究成果の一部は、「教養形成期のウィリアム・テンプル」(『岡山大学法学会雑誌』第62巻第1号)として公表した。 次いで、テンプルとハリファクス候の賢慮概念、特に前者について考察した。取り上げたテクストは、1680 年代から90年代に書かれた諸著作、とりわけ Upon the Gardens of Epicurus と An Essay upon Ancient and Modern Learningである。前著においてテンプルは、当時一般的であった幾何学的規則性が作り出す整形式庭園様式ではなく、自然に従い、不規則性と想像力による美の可能性を秘めた風景式庭園様式を称揚している。ここに、趣味の変容と閉ざされた庭園から開かれた庭園という、人文主義的美意識と結びついた実践哲学のモーメントを見出すことができた。また後著においては、近代の学問よりもアリストテレスに代表される古代の学問の優秀性を説いているが、ここでも近代的なるものに対して批判的姿勢を貫き、その問題性を伝統的思惟で克服しようとしたテンプルの実践哲学の特質を見てとることができた。 現在は、最終年度に向けて上記の内容に関する論文を準備している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究2年目の計画を遂行するうえに必要な第一次資料や関係図書は、ほぼ予定どおり収集することができた。それらテクスト、とりわけ1680 年代から90年代に書かれたテンプルのUpon the Gardens of Epicurus や An Essay upon Ancient and Modern Learningを丹念に読解しながら、初期近代イギリスにおいて実践哲学がどのように形成されたか、またその哲学の特質はいかなるものであったかを考察した。それとともに、テンプルの実践哲学の形成過程を幼年期から青年期までに受けた教育、またグランド・ツアーで得た経験等の分析をとおして解明し、その研究成果の一部を論文としてまとめた。ハリファクス候の賢慮概念の考察も進んでおり、研究の目的はおおむね順調に伸展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成25年度は、引き続きテンプルの実践哲学を考察するとともに、 ハリファクス侯とR・ハーリを研究対象とする。彼らの議会演説・書簡・日記などを読解しながら、彼らの政治理念にも賢慮概念が包蔵されていることを明らかにする。とりわけ注目するのは、ハリファクスにあっては政治的賢慮の別名とも言うべき「日和見主義」の思想であり、ハーリの場合は、カントリ主義に立脚した賢慮概念の変容とも言うべき「マネージメント」の概念である。ハリファクスとハーリの賢慮概念の分析を通して、実践哲学が彼らにおいてどのように形成され、賢慮の政治としてどのように具体化されていったかを考察する。そしてテンプルを含む彼らの実践哲学が、18世紀のバークたちにいかに継承されていったかをイギリス政治思想史のパースペクティヴの中で明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度は、主としてハリファクス侯とR・ハーリを研究対象とする予定であるが、研究遂行上必要な資料はいまだ十分に収集し得ていない。彼らの議会演説・書簡・日記などの私文書、マニュスクリプト資料などを収集する必要があり、また研究成果発表のための出張旅費も十分考えておかなければならない。以上の理由から、研究費の一部をあえて次年度に回すことにした。次年度の研究費の使用計画としては、上記の議会演説・書簡・日記、政治パンフレットなどの歴史的文書やヨーロッパ政治史・政治思想史等の関係図書の購入、資料収集および成果発表のための出張旅費、収集した資料を保管するためのファイル、大容量の外付けハードディスクの購入等に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)