2013 Fiscal Year Research-status Report
社会的ジレンマとソーシャル・キャピタルに関する日中比較研究
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23530148
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
上野 眞也 熊本大学, 政策創造研究教育センター, 教授 (70333523)
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Keywords | ソーシャル・キャピタル / ソーシャル・ネットワーク / 中国 / 居民自治理事会 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
現代社会における連帯や向社会的行動を抑制する社会的ジレンマについて明らかにするため、ソーシャル・キャピタル分析により日中のコミュニティに関する実証的研究を行ってきた。 上海市のコミュニティについては、複数の街道政府と居民自治理事会へのフィールド調査により、所得階層別のゲーティッド・コミュニティが形成されている。出身地、親族、職場の友人などの同所得階級との信頼やコミュニケーションは非常に強く、SNSも頻繁に用いられている。しかし隣接コミュニティとの関係性は極めて薄く、地域レベルでは帰属意識や互酬性の規範などを基盤とするソーシャル・キャピタルが育っていないことが窺われた。所得階層を超えた付き合い自体が、その階層メンバーとして好ましくないという規範が働いている可能性も見られた。 農村戸籍の問題は、中国国民の基本的権利に大きな制約条件となっている。上海市民は、農村など市外の出身者に対して、経済力や学歴がない限り、同様の社会階層者として受け入れない偏見が見られる。そのため、農民工は、地縁・血縁を活かした彼らの社会ネットワークを使って建設工事現場など仕事の情報を得ている。街道政府など行政から見ると、彼らは都市にとって必要な労働力であるものの、不法移民であり、市民として普遍的にサービスを提供すべき主体とは見なされていない。 近年、農民工向けの学校や社会保障制度などの創設、貧困者地域におけるソーシャル・ワーカーの配置などが街道政府により進められているが、格差解消の効果は見られない。ソーシャル・ワーカー自身の社会経済的地位も未だ低い状態にある。 人と空間、経済力により、ソーシャル・キャピタルの蓄積や機能が異なるところに中国のSCの特徴が確認される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中国での実証的研究について、フィールド調査を活かしたソーシャル・キャピタル研究については、先行研究やインタビュー調査により計画どおりの成果が得られている。とりわけ経済的な社会階層別にソーシャル・キャピタルが形成され、その階層内ではSNSを使った濃いコミュニケーションが交わされている一方、階層を超えたつながりは基本的に忌避されていることが分かり興味深い。 法治社会ではなく人治社会である中国では、人脈や友情、血縁、地縁を大事にし、それらを総動員して仕事や生活の向上に活かすという傾向がいずれの階層も見られる。異なる階層間の付き合いは、仲間への帰属意識が問われかねないため、地域コミュニティという居住地域単位のSCは発達しない構造となっている。今後、分断されたSCが社会ネットワークの亀裂となっていることについて更に考察を深める予定である。 しかしながら、街道政府及び居民自治会に依頼して行った住民アンケート調査は、平成25年度中に調査票の回収・集計・分析を終了することとしていたが、日中外交関係の緊張が続き市民からの調査票回収に時間を要してしまった。また共同研究者の劉准教授が25年秋にコペンハーゲンの欧州中国研究センター所長に任命され、欧州と中国を行き来していることで、中国における調査票の入力とデータ化作業が遅れている。 補助事業期間の延長許可をいただいたので、平成26年度中に既に完了している研究成果と併せて研究報告書としてまとめ公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
ソーシャル・キャピタルの蓄積形態が、これまでの日本や欧米のSC研究結果と大きくことなり、経済階層による社会分断が顕著に窺える。 ところが現在、上海市や街道政府では、市民社会形成のため、市民参加や協働といった日本と同じように見える行政ガバナンス改革を進めており、その目的は「市民社会の形成」という言説が用いられている。近年、このテーマに関する研究も、中国の公共政策学研究者に多く見られる。 日本で語られる自治体が行う地域づくりやコミュニティづくり政策と、中国で進められている市民社会形成との違いについて、公共政策の観点から明らかにする研究が必要ではないかと考える。 日本では帰属意識を高めコミュニティを再生させることでレジリエンスの高い地域社会形成を目指すという政策ベクトルがよく見られるが、国民のライフスタイルや価値観が変化するなかで、今後も「地域コミュニティ」という単位が地域課題解決や共助の単位として有効たり得るのか探求していきたい。 中国については、民主主義ではない政治制度化で、市民参加を進める含意と社会変化のベクトルについて、今後、本研究の知見を足がかりにし、二カ国を対照しながら研究を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
街道政府及び居民自治会に依頼して行った住民アンケート調査について、平成25年度中に調査票の回収・集計・分析を終了することとしていたが、日中外交関係の緊張が続き市民からの調査票回収に予想外の時間を要してしまった。また共同研究者の劉准教授が25年秋にコペンハーゲンの欧州中国研究センター所長に任命され、欧州と中国を行き来することで、調査票の入力とデータ化作業が遅れた。 補助事業期間の延長許可をいただいたので、平成26年度中に既に完了している研究成果と併せて社会調査部分の解析を完了し、研究報告書として取り纏めの上公表する予定である。
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