2011 Fiscal Year Research-status Report
共和制イングランドの政治理念に関する研究:良心論および契約論の視点から
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23530151
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
大澤 麦 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (30306378)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 共和主義 / 良心 / 契約 / ピューリタニズム / イギリス革命 / 寛容 / レヴェラーズ / 自由主義 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1649年に成立した共和制イングランドの政治思想史上の意義を、ヨーロッパ宗教改革に起源をもつ良心論とその系譜から現れるピューリタニズムの契約理論の観点から、明らかにすることである。 この目的のため、本年度は研究初年度として、本研究全体の基礎となる諸項目、すなわち(1)ヨーロッパ宗教改革および宗教戦争、(2)ピューリタニズムの良心論、(3)アディアフォラ論争、(4)共和制イングランドの体制としての正当性をめぐるエンゲージメント論争の4分野についての基礎文献・資料の収集と精読に研究の大きな比重を割いた。そして、その過程で得られた知見を生かして、本研究の準備段階での構想を、学術論文「共和制イングランドの成立とレヴェラーズの『人民協約』:英国共和主義思想における社会契約論」としてまとめることができた。この論文で取り組んだレヴェラーズはピューリタニズムの良心論と契約論とを吸収した政治集団であり、彼らの『人民協約』についての考察は、本研究全体の骨格となる重要性をもっている。 また、上記の研究を遂行しながら、本研究におけるアイルランドの視点の重要性を新たに発見した。それをいち早く世に公表する必要性に鑑みて、その問題を集約的に考察しているアイルランド史家M・オシオクル氏の論考「一七世紀中期アイルランドにおける戦争と和平」の翻訳に取り組んだ。これは近々、雑誌『思想』(岩波書店)誌上に掲載される予定である。 さらに、今年度は本研究に深くかかわる政治思想学会(5月)、日本ピューリタニズム学会(6月)、日本政治学会(10月)の各研究大会・研究会に参加して、関連諸分野の研究者との意見交換を行うことで、知見を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は上記「研究実績の概要」にも記した通り、本研究全体にかかわる資料・文献の収集と精読に力を入れる予定であった。この点について、ピューリタニズムの良心論およびアディアフォラ論争の分野においてはいささか不十分ではあったものの、共和制イングランドの体制としての正当性をめぐるエンゲージメント論争についての資料収集と読解については、望外の大きな成果を得ることができた。また、この過程で学術論文「共和制イングランドの成立とレヴェラーズの『人民協約』:英国共和主義思想における社会契約論」を公表することができたことも、大きな成果であったと考えている。 さらに、関連諸分野の研究者との学術的交流も大変良好であった。とくに、上記「研究実績の概要」で言及した翻訳との関係で、トリニティ・カレッジ・ダブリンのM・オシオクル教授と貴重な意見交換を行うことができたことは、今後の研究を遂行していく上で、非常に有益であった。 以上述べたことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に遂行した研究を下地にして、「研究目的」に記した4つの論点、すなわち(1)「16~17世紀における良心論の意義と展開」(2)「17世紀イングランドにおける契約論的政治思想の特質の解明」、(3)「政治思想の観点に基づいた共和制イングランドの成立と展開についての考察」、(4)「共和主義の国家論の分析と評価」に取り組んでいく。いずれも、資料や文献の丹念な読解を中心にした方法で推進される。最終的には、聖俗二つの視点から、共和制イングランドの政治思想的特質を多面的に解明しながら、個人の自由と体制への信従とを総合する社会倫理としての良心論とそれに由来する契約論との意義を明らかにすることが目指される。 こうした探究の途上において得られる個別的な研究成果は、学会発表や個別論文において逐次公表していくことを、可能な限り実行していきたい。当面は、上記「研究実績の概要」で言及したレヴェラーズとエンゲージメント論争の関係を探究した論考の公表を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究も本年度に引き続き、主として資料・研究文献の精読・分析を通じて推し進められていく。したがって、必要な研究経費としては、(1)資料集・専門書の購入費、(2)他の大学や研究機関の蔵書を参照・複写するのに要する旅費と文献の複写費・郵送費、(3)資料の整理等の業務をアルバイトに行なってもらう際の謝金、(4)そして文具品を中心にした若干の消耗品費などが挙げられる。 このうち、とくに重要なのは(1)であり、よって次年度も研究経費の大きな配分がこれに割り当てられている。(2)は(1)を補うために毎年度欠かせない資料収集費であるとともに、他大学・研究機関に所属する研究者との意見交換のためにも必要である。特に次年度は、国内では参照できない文書の調査、あるいは海外の研究者との意見交換のために、7~10日間ほどのイングランドおよびアイルランドへの海外出張も計画している。 なお、「次年度使用額」681円は、必要な物品を購入するには少額過ぎるために、翌年度以降の研究費と合わせて使用することが適切であるとの判断によって生じたものである。
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Research Products
(1 results)