2012 Fiscal Year Research-status Report
共和制イングランドの政治理念に関する研究:良心論および契約論の視点から
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23530151
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
大澤 麦 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (30306378)
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Keywords | 共和主義 / 良心 / 契約 / ピューリタニズム / イギリス革命 / 寛容 / レヴェラーズ / 自由主義 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1649年に成立した共和制イングランドの政治思想史上の意義を、ヨーロッパ宗教改革に起源をもつ良心論とその系譜から現れるピューリタニズムの契約理論の観点から、明らかにすることである。 この目的のため、本年度は、17世紀イングランドにおける契約論的政治思想の特質の解明と、政治思想の観点に基づいた共和制イングランドの成立と展開についての考察とに重点的に取り組んだ。これに関する成果の一部は、本年度9月の日本ピューリタニズム学会定例研究会で行った研究報告「共和制イングランドの政治理念:CovenantとAgrementとEngagementの狭間で」において公表した。要旨は今年度11月に刊行された日本ピューリタニズム学会「Newsletter」13号に掲載されている。この研究報告は加筆して、まとまった学術論文として公表できる見通しにある。 さらに、国内では参照できない資料を調査するために、本年度3月にイギリスおよびアイルランドに出張し、大英図書館、オックスフォード大学ボードリアン図書館、トリニティ・カレッジ・ダブリン図書館で研究を行った。この成果も次年度以降に公表する予定の学術論文の中で活かされる予定である。 また、上記の研究を遂行しながら、本研究におけるアイルランドの視点の重要性を新たに発見した昨年度の成果を具体的な形で示すために、本年度10月、アイルランド史家ミホル・オショクル氏の論考「17世紀中期アイルランドにおける戦争と和平」の翻訳を『思想』1063号(岩波書店)に公表した。オショクル氏とは上記の海外出張中に面談し、貴重な学術的意見交換を行った。その他、今年度は本研究に深くかかわる政治思想学会(5月)、日本ピューリタニズム学会(6月)、日本政治学会(10月)の各 研究大会・研究会に参加して、関連諸分野の研究者との意見交換を行うことで、知見を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は上記「研究実績の概要」にも記した通り、17世紀イングランドにおける契約論的政治思想の特質の解明と、政治思想の観点に基づいた共和制イングランドの成立と展開についての考察を重点的に行うことであった。この点についての成果を学会発表「共和制イングランドの政治理念:CovenantとAgrementとEngagementの狭間で」という形で具体的に示すことができたこと、またこれを基礎にしてさらに本格的な学術論文を執筆できる見通しを得られたことは、今年度における大きな収穫であった。 また、資料調査のための海外出張によって、本研究に必要な資料の所在や入手・参照方法が明らかになったことは、次年度以後の研究にとって多大な便宜となった。 さらに、関連諸分野の研究者との学術的交流も大変良好であった。とくに、上記「研究実績の概要」で言及した翻訳との関係で、トリニティ・カレッジ・ダブリンのミホル・オショクル氏との面会による直接的な意見交換を行うことができたことは、今後の研究を遂行していく上で、非常に有益であった。 以上述べたことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに遂行した成果を基礎にして、本研究全体の目的、すなわち共和制イングランドの政治思想史上の意義を、ヨーロッパ宗教改革に起源をもつ良心論とその系譜から現れるピューリタニズムの契約理論の観点から明らかにする作業を遂行していく。とくに次年度は、研究の最終年度であることから、全体の成果を近い将来において書物の形にまとめるための見通しをつけることを目指していきたい。具体的には、近年中に岩波書店から刊行される予定の岩波講座『政治哲学』全6巻の中の執筆分担部分において、その概略と骨格が示せればと考えている。 研究方法としては、これまで通り、資料や文献の丹念な読解を中心にした方法が用いられる。そのため、今年度行ったイギリスの大英図書館あるいはオックスフォード大学ボードリアン図書館での資料調査の継続は、研究遂行の上で必須の作業となる。このことの重要性は、今年度これを実際に行ってみて、改めて深く認識させられた次第である。 また、上記の作業を遂行していく途上において得られる個別的な研究成果として、上記「研究実績の概要」で言及した学術論文を、『法学会雑誌』上に公表したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究も本年度に引き続き、主として資料・研究文献の精読・分析を通じて推し進められていく。したがって、必要な研究経費としては、①資料集・専門書の購入費、②他の大学や研究機関の蔵書を参照・複写するのに要する旅費と文献の複写費・郵送費、③資料の整理等の業務をアルバイトに行なってもらう際の謝金、④そして文具品を中心にした若干の消耗品費などが挙げられる。 このうち、とくに重要なのは①と②であり、よって次年度も研究経費の大きな配分がこれらに割り当てられている。次年度は、上記「今後の研究の推進方策」に記した通り、国内では参照できない資料の調査のために、7~10日間ほどのイングランドへの海外出張を計画している。 なお、「次年度使用額」4130円は、今年度の海外出張が年度末に近い3月に行われた影響で生じたものである。すなわち、当初はこれを現地での複写費等に充てようと考えていたが、便宜上の理由から、これを私費でまかなうことにしたのである。この「次年度使用額」4130円は、次年度の研究費と合わせて、複写費等に使用する予定である。
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