2012 Fiscal Year Research-status Report
食の安全を保障するグローバル・フードシステム形成のための政策規範論的研究
Project/Area Number |
23530154
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
伊藤 恭彦 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (30223192)
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Keywords | 食の残全 / フードシステム / グローバルな正義 / 食料主権 / 食の人権 / フード・ジャスティス / 政策規範 |
Research Abstract |
本研究は富裕国の豊かな食生活が複雑なグローバル・フードシステムによって支えられているが、同時にこのシステムの歪みが貧困国・途上国における食料難を引き起こしていることを解明し、このシステムを改革するための政策規範を構築することが目的である。 本年度はグローバル・フードシステムの構造的特質ならびに問題点の解明を行った。グローバル・フードシステムの問題点として、それが「食の工業化」を生み出していること、そしてそれが過剰な穀物消費を引き起こしていることを明らかにした。そして、そのような「食の工業化」が富裕国のいわゆる「生活習慣病」の一因にもなっている。「食の工業化」による過剰な穀物消費は、貧困国と途上国における慢性的食料不足をもたらし、この点にグローバル・フードシステムの構造的問題がある。 グローバル・フードシステムの構造的問題点を加速させた政策として、1990年代以降に強力に推し進められた「食料安全保障政策」を検討した。「食料安全保障政策」は一方で科学技術を食料生産現場で積極的に活用し、食料の増産を図ることに成功した面があるものの、増産した穀物が先進国の「食の工業化」に活用され、途上国の食料難を必ずしも解決できていないこと、さらに科学技術による食料生産が途上国の伝統的農業を破壊し、逆に自然に対して脆弱な農業生産に転落してしまった面もある。 「食料安全保障政策」に対抗する価値として、近年、「食料主権」という概念に注目が集まっている。また「食料主権」に根ざした公平な食料生産と分配を目指すフード・ジャスティスという構想も広がっている。こうした対抗価値の重要性を今年度の研究では確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グローバル・フードシステムの構造的問題点の解明、すなわち生活習慣病を引き起こす飽食と食料難(飢餓、貧困)の同時並存については、かなりの程度解明できた。他方で、研究計画策定の段階で必ずしも意識していなかった、「食料安全保障」と「食料主権」の対抗が、グローバル・フードシステムの構想的問題点を解明し、その変革のために重要な規範的対抗である点に気がついた。この規範的対抗については、研究者のみならず各種社会運動の中でも議論が広がっており、この点が十分にフォローできなかった。次年度、最初に取り組む課題とした。 なお、本年度までの研究成果の一部を使い、一般市民向けの啓蒙書『さもしい人間 正義をさがす哲学』(新潮新書)を公刊した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では、3年目の平成25年度は「食の人権」の規範的解明を行う計画であった。2年目までの研究で、「食料安全保障」と「食料主権」の規範的対抗の重要性に気がついたため、まず、この対抗について理論的に解明することを行う。文献調査のみならず、「食料主権」を掲げる各種団体についての調査を行う。その上で「食料主権」と「食の人権」についての論理的、規範的連関を解明したい。 以上の研究を踏まえ、グローバル・フードシステムの構造的問題点を克服するための政策規範を構想したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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