2012 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ沖合石油・天然ガス田の新規掘削モラトリアムの歴史研究
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23530158
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Research Institution | Keiai University |
Principal Investigator |
櫛田 久代 敬愛大学, 国際学部, 教授 (10281776)
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Keywords | アメリカ合衆国 / 連邦油濁法 / 石油・天然ガス田開発 / 地域住民諮問委員会 / 連邦エネルギー政策 / エクソン・バルディーズ号座礁事件 / 原油流出事故 / アラスカ州 |
Research Abstract |
最新の研究成果を踏まえつつ、レーガン政権からオバマ政権までを研究対象として、新規沖合石油・天然ガス田開発モラトリアム措置をめぐる政治過程の全体像を把握する作業を進めてきた。その過程で、天然資源が豊富なアラスカ州で進められてきた石油・天然ガス田開発が、1989年のエクソン・バルディーズ号座礁事故によって引き起こされた油濁事故によりどのような影響を受けたのかを、州ならびに連邦レベルで探っている。連邦レベルのエネルギー政策ならびに環境政策への影響を調べる中で注目したのは、1990年の連邦油濁法、the Oil Pollution Act of 1990 (OPA)の成立とその中で規定された地域住民諮問委員会の存在であった。アラスカ州事故調査委員会では連邦、州、地方政府と産業界による事故防止策に対して、市民監視の視点を打ち出し、アラスカ州政府に対して提案した。それが、この地域住民諮問委員会である。これまでの研究において、アラスカ州の油濁関連2地域では、地域における利害関係者を巻き込んだ市民監視団体が石油企業の資金を基に創設された。これは、アメリカの連邦および州政府のエネルギー政策および環境保護政策を監視する仕組みの制度化として重要ではないかという知見を得ている。と同時に、1990年の連邦油濁法の成立過程とその後についての分析が、今後、アメリカにおける連邦政府と州政府間のエネルギー環境政策の相互作用を考察する際の重要事例であることを改めて考えさせられた。なお、平成25年6月には、日本比較政治学会において当該研究の途中経過を報告する。また、当該研究で得た知見を、9月の日本政治学会の部会における議論においてアメリカの政策形成過程の視点から、コメンテーターという形ではあるが、貢献したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では以下のような研究目的を掲げていた。各州の動向を踏まえ、レーガン政権からオバマ政権に至る大統領令および連邦議会の立法措置による新規沖合資源開発に対するモラトリアム政策を歴史的に概観し、分権的な政治制度の中で、モラトリアム措置がこれほど長期にわたって存続してきた背景について分析を行うことで、アメリカにおける連邦政府と州政府間のエネルギー環境政策の相互作用を考察する。その際、平成24年度は、州レベルでは、カリフォルニア州、アラスカ州、ルイジアナ州、フロリダ州を対象に、州間および州内におけるエネルギー環境政策への対応の違いを歴史的かつ実証的に分析することを予定していた。目下のところ、ルイジアナ州、アラスカ州、カリフォルニア州の動向を調査中である。特に、アラスカ州においては、1989年のエクソン・バルディーズ号座礁事故後の油濁防止安全対策において、州事故調査委員会の提案が連邦油濁法に取り入れられ、2つの地域住民諮問委員会が同州において創設された。市民の側の行政監視を制度化する試みである。同様な地域住民諮問委員会は、カリフォルニア州やメイン州にも見られる。調査研究を通して、行政と市民の双方も含めた利害関係者が参画する第三者機関が、エネルギー政策ならびに環境政策に積極的に発言してきたことが分かってきている。地域住民諮問委員会の存在は、市民、産業界、州政府ならびに連邦政府の相互作用という観点からも本研究課題を解明する糸口になりえそうである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、当初計画では、成果発表(学会発表・論文執筆)、報告書作成を予定していた。これに関しては、予定通り、平成25年6月開催の日本比較政治学会ならびに9月開催の日本政治学会において、本研究内容に関する学会報告(後者においては、部会における討論者報告)を行う。また、成果報告書を作成する。 その一方で、当初計画では2年目に現地における資料収集を予定していたが、実施できなかった。文献調査を補完するためにも、3年目であるが、アラスカ州、カリフォルニア州において現地調査を実施したいと考えている。そのため、平成25年度は、前年度に引き続き先行研究および資料の整理・分析・現地での追加資料収集を行う。 なお、本研究計画では、州レベルの調査対象として、カリフォルニア州、アラスカ州、ルイジアナ州、フロリダ州の4州を考えていた。しかし、2年の研究期間を終え、調査対象として、カリフォルニア州、アラスカ州、ルイジアナ州の3州に絞って、比較研究した方が、連邦と州との相互作用を検討する際に、有益ではないかという考えに、傾いてきている。いずれにせよ、現時点での成果をまとめ、学会発表を行うとともに、学会報告を通して、これまでの研究内容を再整理し、最終的に、論文を執筆する。論文は、学会誌への投稿を考えているが、研究結果が一論文に収まらない場合は、学内の紀要への投稿も考えている。いずれにせよ、論文執筆のための準備を進めて行くと同時に、執筆の過程で、再度資料の補充を行いつつ、3年間の研究成果をまとめる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に、当初予定していた現地調査が実施できなかった関係で、平成25年度の研究費は56万円ある。最終年度であるが、文献資料による調査では不明な現地情報および現地における資料収集を行うために、夏季休暇を利用してアラスカ州ならびにカリフォルニア州における現地調査を実施する。そのため、平成25年度の研究費の使途を以下のように振り分けることを予定している。物品費150,000円、旅費350,000円、人件費・謝礼5,000円、その他55,000円の計56万円である。 物品費は、引き続きアメリカ政治行政関係図書の購入費が主である。図書の中には、海外の論文も含まれる。先行研究を確認するために海外の論文収集は不可欠である。しかし、研究拠点である所属大学では、研究に必要な学会誌関連のデータベースがないため、一論文あたりの価格は高いが、海外のデータベースサイトから直接論文を購入せざるを得ない。そのため、図書・論文購入に充てる費用は、予算を上回ることが予想される。もし上回ることがあれば、その他から充当する予定である。 旅費は、国内の学会出張(6月日本比較政治学会の研究大会、9月日本政治学会の研究大会)のための国内旅費8万円とアメリカでの調査研究のための外国旅費27万円を予定している。ただし、渡航の日程によっては、旅費が高額となる可能性もある。その際は、9月の国内学会出張旅費を計上せず、海外旅費に充当することを考えている。最後に、その他としては、購入プリンターのトナーカートリッジ、資料整理のための文具、研究報告書作成費を予定している。
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