2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530162
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岡山 裕 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (70272408)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 独立行政委員会 / 行政機関 / 行政国家 / 行政法 / ニューディール / 州際通商委員会 |
Research Abstract |
本研究課題は、多くの先進諸国で執政府の官僚制が行政国家の基軸を構成しているのと異なり、アメリカで独立行政委員会という、大統領から自律的な合議制機関が行政国家化の初めから重要でありつづけてきた理由に加え、それによってアメリカの行政国家全体がいかなる特徴を持っているのかを明らかにしようとしている。とくに、独立行政委員会を通じてアメリカで行政国家が強い「司法性」を帯びるようになったとみて、その過程を分析している。 研究計画の一年目にあたる本年度には、大きく二つの作業を進めた。第一に、そもそもアメリカでなぜ独立行政委員会が発達し、それがどのように行政国家全体に司法性を付与したのかについて、比較政治制度論の観点からマクロ・レベルの説明を試みた。具体的には、大統領制とコモン・ローの法体系という特異ともいえる組み合わせが、執政権から自律的かつ司法府によって強い拘束を受けるような行政機関の登場につながったととらえ、アメリカ初の独立行政委員会である州際通商委員会の設置過程を事例に論文を執筆した。この論文はアメリカ政治学会年次大会で報告し、現在学術誌への投稿を試みている。 第二に、独立行政委員会の現代における存続を説明するために、1930年代後半に大統領が試みた執政府再編を事例とした論文を執筆した。そのために、フランクリン・ローズヴェルト図書館で集中的な一次資料調査を行っている。それによって、ローズヴェルト政権がなぜ独立行政委員会の廃止に失敗したのかについて、新解釈を提示している。この論文については、2012年度のアメリカ中西部政治学会および政策史カンファレンスにて報告が決まっており、そこでフィードバックを受け、修正の上で学術誌に投稿したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は「独立行政委員会の発展がアメリカ行政国家の強い司法性につながった」という本研究の主張の妥当性を、決定的に重要な歴史上の事例に照らして確認することに集中した。その結果、取り上げた二つの事例それぞれについて、一次資料調査に基づいて重要な再解釈を伴う形で主張が有効性を持つことがわかり、さらにそれを論文にまとめられたことで、今後の研究にはずみがついたと考えている。また本研究を進める上で不可欠な、アメリカ行政法に関して基本的な知識を吸収することもでき、この点でも手応えがえられた。一方で、他の先進諸国との比較を意識したマクロな制度論的分析については、アメリカの法制度を超えて大陸法系とコモン・ローの本格的な比較を行う必要がある。そのためには、とくに英国におけるコモン・ローとそこでの行政法の発達に関して知識を得る必要があるが、この点については主要な研究の存在を把握したところで止まっており、今後の課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、基本的には本年度と同様に、本研究課題全体を貫く「アメリカ行政国家の司法化」に関する理論的なマクロ分析と、具体的な歴史的事例の分析という二本立てで研究を進めていく予定である。とくにマクロ分析については、上でも述べたように英国のコモン・ローの発展過程に関して一定の理解を得る必要があり、平成24年度にはまとまった時間をとってこの作業を行いたいと考えている。また具体的な事例分析としては、これまで計画に含めていたニューディール期の行政機構の発展、1940年代における行政手続法の制定に加えて、1960年代のケネディ政権下における独立行政委員会再編の試みを取り上げる必要が意識されるようになった。 具体的な進め方としては、マクロ分析の含意を含める形で個々の事例分析を論文としてまとめ、学会等で発表してフィードバックを得、修正の後学術誌で発表する、という流れとなるが、最終的には全体を単行書にまとめたいと考えている。現在の課題は、本研究のテーマであるアメリカ行政国家の「司法化」という現象が、行政法学者にとっては半ば「常識」である反面、政治学者や政治史学者には全くといってよいほど知られておらず、このテーマの重要性をどのように「売り込む」かという点にある。この点でも、政治学を中心に様々な分野の会議で積極的に発表を行い、手応えを探りたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度については、勤務機関より在外研究の機会を与えられたために、アメリカでの史料調査および学会参加に必要な旅費が減り、その分について残高が生じた。この分については、次年度以降に当初予定では予算的に実現が困難だった学会報告を行うことで、有効に活用する予定である。 次年度の研究費の使用計画としては、取り上げる個々の歴史的事例と、英米の行政法に関わる文献を随時購入する以外に、資料調査と学会発表のそれぞれに研究費を使用することを考えている。とくに文献資料に関しては、1930年代から40年代にかけての行政機関の司法化に関する一次資料の多くが古書店を通じて入手可能であることが判明したため、図書館で閲覧できないものについてなるべく系統的に購入することを考えている。 まず資料調査については、ケネディ政権下における独立行政委員会再編を分析するために、6月にボストンのケネディ大統領図書館においてジェイムズ・ランディス文書を含む関連資料を集中的に分析したいと考えている。またフランクリン・ローズヴェルト政権期の動向については、夏期にワシントンDCの国立公文書館および連邦議会図書館で幅広く資料収集を行う予定である。 次に学会発表については、4月のアメリカ中西部政治学会(シカゴ)、6月の政策史カンファレンス(ヴァジニア州リッチモンド)が既に決定している。報告申請が認められれば、23年度の残額も活用することで、11月のアメリカ北東部政治学会、2013年1月のアメリカ南部政治学会(ニューオーリンズ)でも報告を行うことを考えている。また発表の準備、そしてその後の論文投稿に際して、必要に応じて英文校閲のサービスを利用する予定であり、それにも研究費を使用できればと考えている。
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Research Products
(2 results)