2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530162
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岡山 裕 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (70272408)
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Keywords | アメリカ / 独立行政委員会 / 行政法 / 行政機関 / 司法化 |
Research Abstract |
本研究課題は、執政府の官僚制を中心とする他国の行政国家と異なり、なぜアメリカでは独立行政委員会という、大統領から自律的な合議制機関が行政国家化の初めから重要でありつづけてきたのか、それによってアメリカの行政国家全体がいかなる特徴を持っているのかを明らかにしようとしている。その際、アメリカの行政国家が強い「司法性」という独自の特徴を獲得したとみて、行政機構の発展を、独立行政委員会制度の展開を軸に分析することで解明する。本年度は、大きく次の二つの領域について研究の進展がみられた。 第一に、ニューディール期の行政における独立行政委員会の位置づけに関して、1936年に設置された行政機構再編に関する大統領諮問委員会(いわゆるブラウンロウ委員会)による調査・研究と、その報告書に基づいた行政機構再編の試みを、独立行政委員会の扱いを軸に分析し、ワーキングペーパーにまとめた。従来、この委員会は独立行政委員会の執政府への取り込みを強調していたとみられてきた。ところが、実際には当時強い影響力を持っていた、行政手続きを司法的なものにしておこうとする行政法学の影響を受けていた結果、同委員会およびローズヴェルト政権の独立行政委員会への攻撃がかなり抑制されていたのを明らかにした。このペーパーは、2012年度アメリカ中西部政治学会および政策史カンファレンスで報告し、参加者から貴重なフィードバックを得られた。 第二に、20世紀初頭からニューディール期までの独立行政委員会制度の発展について、ワーキングペーパーを執筆し、2013年1月のアメリカ南部政治学会において発表した。そこでは、主な独立行政委員会の設置過程において従来執政権からの独立が前提しされていたのに対して、実際には相当程度大統領の介入があったのを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は本研究課題の2年目にあたるが、当初計画していた、ニューディール期の行政機構再編の試みにおける独立行政委員会制度の展開の分析について、予定通り一次史料の分析を踏まえたワーキングペーパーを執筆し、三つの学会および研究集会で報告することができた。このペーパーは、報告に対するフィードバックを踏まえて、現在学術誌に投稿を準備中である。 一方で、本年度には次年度に検討を予定している1946年行政手続法の制定過程について、基礎的な文献を収集、精査する以外に、連邦議会図書館を含めて史料調査を行った。その点で、十分な準備作業ができたと考えている。 また、本年度はニューディール以降の独立行政委員会のあり方を考える際に、その前提となった、1920年代までの制度展開についても、新たな着想を得てまとまった分析を行うことができた。そのため、研究全体のとりまとめに向けて、重要な足がかりが得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の進め方としては、大きく以下の二つを考えている。 第一は、今年度執筆した、ニューディール期の行政機構再編に関するペーパーの延長上にある、1946年行政手続法の制定までの過程を、一次史料も用いて分析し、ペーパーの形にまとめることである。それによって、本研究課題が目指している、アメリカの行政国家の「司法化」の過程を、独立行政委員会というレンズを通じてではあるが、一通り見渡すことができると期待される。今年度の分析によって、対象時期における政治的対立の構図や、本研究課題において鍵となる、行政法による司法的な行政観について見取り図が得られたため、見通しよく分析を進められるものと期待している。 第二は、20世紀初頭から1920年代にかけての独立行政委員会の発展過程についての分析をさらに洗練させることである。これは、本研究課題の構想当時は対象外としていたテーマであるが、本研究課題の対象時期におけるいくつかの制度変化を検討するうえで、見落とすことのできない背景を構成することが判明している。すでにワーキングペーパーを執筆しているので、これを修正して2013年度のアメリカ政治学会にて報告し、本研究課題全体との関係を意識しながら、さらに書き直しを行いたい。また9月に予定されているアメリカ史学会では、大統領と行政機関の関係という観点からも報告を予定している。 このように、本研究課題の遂行に際しては、これまでの年度と同様に、全体をいくつかの時期に分けてそれぞれを集中的に検討し、論文を執筆するのに加えて、それらをどう組み合わせて流れを構成するという作業を並行して進め、最終的なとりまとめまで持って行きたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画としては、大きく次の三つを考えている。 第一は、成果を学会で報告するための旅費である。まず、2013年8月に予定されているアメリカ政治学会での報告を予定しており、またそのために執筆するペーパーについて、英文の校閲料の支出を予定している。次に、同年9月に京都の立命館大学で開催が予定されているアメリカ史学会でも報告を行う予定である。 第二は、1930年代後半から1946年行政手続法の制定に至る、行政手続をめぐる政治過程の分析に必要な一次史料の収集である。連邦議会図書館およびフランクリン・ローズヴェルト大統領図書館での調査を予定しているが、アメリカでの学会報告と併せて実施することで、研究費を効率的に使用したいと考えている。 第三は、上記の研究に関連する一次・二次文献の購入である。とくに近年は、史料を訪問せずにコピーやスキャンを入手することが比較的容易になったため、現地に滞在するほどでもなく、少量の史料が必要になった場合、現地係員によるコピーおよび送料・手数料を支出したいと考えている。それに加えて、関連する個人文書のマイクロフィルムが入手できる場合は、その購入にも使いたいと考えている。 なお、前年度の予算から約18万円の繰り越しを行ったが、これは一昨年度と同様に、歴史的な円高が続いたために、当初予定通りの支出をしても余裕が生じたためである。この繰り越し分は、主に現地調査の旅費として有効に活用したいと考えている。
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Research Products
(3 results)