2011 Fiscal Year Research-status Report
日米安全保障条約の事前協議制度をめぐる密約の政治史的構造
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23530165
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
信夫 隆司 日本大学, 法学部, 教授 (00196411)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日米安保条約 / 事前協議制度 / 沖縄核密約 / 若泉敬 / 佐藤榮作 / リチャード・ニクソン / ヘンリー・キッシンジャー |
Research Abstract |
平成22年3月9日、当時の岡田克也外務大臣が、4つの密約に関する報告書を発表すると同時に、これまでまったく開示されてこなかった331点の文書を公開した。この4つの密約のうちの3つは、1960年に改定された日米安全保障条約に、新たに設けられた「事前協議制度」に関連するものであった。 本研究の目的は、核持込み、戦闘作戦行動(基地の自由使用)、沖縄核密約を中心に、これら密約を生み出した政治史的構造を抉り出すことであった。その中でも、本年度の研究では、沖縄核密約を中心に、若泉敬が事前協議制度に果たした役割について、日米の外交文書を中心に分析した。 研究成果の具体的な内容は、1969年11月の日米共同声明(佐藤榮作総理大臣とリチャード・ニクソン大統領)、および、それと密接に関連することになる秘密の合意議事録(返還後の沖縄へ核持込みの事前協議が行われる場合、日本政府はイエスを保証した内容)の作成過程において、佐藤総理の密使を務めた若泉敬(元京都産業大学教授)が、きわめて重要な役割を果たしたことを、日米の公文書から跡づけることができた点にある。 沖縄返還というわが国の戦後外交史の中で節目となった出来事に関し、日本政府はこれまで沖縄核密約の存在を一貫して否定してきた。本研究では、まず、沖縄核密約の存在について、先の日米共同声明第8項と合意議事録との違いを明らかにしながら、実証的に明らかにした。また、密使・若泉敬がこの共同声明第8項の策定ならびに合意議事録の交渉過程において果たした役割を跡づけることができた。これら二つの点は、わが国外交史上の重要な発見であったと意義づけることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究は、おおむね順調に進捗しているといえる。とりわけ、平成24年3月には、『若泉敬と日米密約――沖縄返還と繊維交渉をめぐる密使外交』を日本評論社より上梓することができた。これは、沖縄核密約に関し、若泉敬の果たした役割を実証的に跡づけたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
日米安保条約の事前協議制度に関し、今後、以下のように研究を進める予定である。 第1に、1960年の日米安保条約の改定において、事前協議制度が設けられた経緯とその意義を再検討したいと考えている。当時、事前協議制度はどのようにとらえられていたのか、米国と他国との条約のなかで、事前協議制度が設けられている例を検証し、その意味するところを明らかにしたい。 第2に、核持込み密約、それに、戦闘作戦行動(基地の自由使用)をめぐる密約に関し、日本側の資料を再検証したい。これら二つの密約に関しては、平成22年3月9日の密約文書の公開によって、日本側文書はかなり明らかになった。ただ、その後の外交記録の公開によって、さらに補完すべき文書が大量に公開されている。そこで、この二つの密約について公開された日本側文書の分析を行う。 第3に、これら密約に関しては、これまで、米側公文書が頼りであり、相当の研究成果が出されている。とはいえ、すべてが調査され尽されたわけでもなく、また、非開示文書も多い。そこで、あらためて、米公文書館において、これら密約に関するする文書のリサーチを行いたい。今年度の研究においては、とりわけ、駐日大使をつとめ、その後、国務次官に就任したU. Alexis Johnsonの文書に注目したいと考えている。この文書は、近年、公開されたため、未だ調査が行われておらず、重要な文書が多数残されている可能性がある。 第4に、以上の調査を踏まえ、事前協議制度の果たしてきた政治史的構造について分析する手がかりを得たいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、メリーランド州カレッジ・パークにある米公文書館におけるリサーチのためにおもに使用する予定である。可能であれば、同公文書館を2回訪れたいと考えている。 1度目は、5月下旬から6月上旬を予定し、おもに、U. Alexis Johnsonの文書を中心にリサーチしたいと思っている。 2度目は、1度目の成果を踏まえ、11月をめどにリサーチしたいと考えている。国務省ならびに国防省を中心に、日米安保条約の改定に関する文書をリサーチする予定である。 平成23年度、調査に行くことができなかった分の旅費を次年度に繰り越し、平成24年度は、米公文書館でのリサーチ回数を増やし、さらに充実した調査を行う予定である。
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