2012 Fiscal Year Research-status Report
アフリカの「国家の失敗」をめぐるセキュリティ・ガバナンスの構築に関する研究
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23530187
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山根 達郎 大阪大学, 国際公共政策研究科, 研究員 (90420512)
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Keywords | 安全保障 / 紛争予防 / 平和構築 / 国家の失敗 / セキュリティ・ガバナンス / 地域機構 / 市民社会組織 / アフリカ |
Research Abstract |
当該年度にあたる平成24年度は、その前年度より進めてきた「セキュリティ・ガバナンス」の理論的アプローチの整理作業を終え、アフリカの事例を対象に同アプローチに基づく分析内容を海外の学術学会等で報告した。 本研究の目的は、「国家の失敗」の度合いが著しいがために武力紛争が多数発生しているアフリカの諸事例(とくに西アフリカ地域)に着目し、紛争終結後(ないし紛争中)の「セキュリティ・ガバナンス」の構築に向けた取り組みについて概観しつつ、こうした枠組みに対する非国家主体による関与の実態について検討することであった。「セキュリティ・ガバナンス」についての萌芽的研究は、冷戦終結後のヨーロッパ内部における安全保障システムの変容をよりよく捉えるために用いられた研究手法の一つであった。本研究はこうしたヨーロッパ域内を対象とした分析アプローチをアフリカ地域にも対象を広げつつ、分析アプローチ自体の再検討を試みた点において重要な学術的意義を持ち合わせるものであった。 そのような目的に照らしつつ、本件研究代表者は、国際関係論の分野で最も有名な国際研究学術学会の一つであるInternational Studies Association (ISA)が実施した2012年研究大会(アメリカ・サンディエゴ)にて論文報告(2012年4月)を実施した。また2012年8月には、研究対象地域であるリベリアに再度訪問し、安全保障問題に関わる国連関係者、地域機関関係者、市民社会組織関係者らに取材を実施した上で、その取材内容を反映させた査読付論文一本を上梓(2012年10月)した。さらに、フィンランドのタンペレ大学平和研究所を往訪した際、関連する研究報告を実施(2012年12月)しフロアからも有益なコメントを頂戴した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、国際関係論における「セキュリティ・ガバナンス」に関する文献の整理を終え、国際研究学術学会(アメリカ)での論文報告一回、フィンランド・タンペレ大学での研究会報告一回を実施し、かつ査読付論文一本を成果の一部として公表した。本研究期間の中間段階にあたる当該年度のタイミングで、国内外に本研究の成果の第一報を公表できたという意味において、研究計画に沿った本研究の目的をおおむね順調に達成できていると考えられる。さらに、本件研究の初年度(平成23年度)で実施した西アフリカにおける事例調査についても、再度リベリアを訪問し、市民社会組織「西アフリカ平和構築ネットワーク(WANEP)」の関係者に貴重なインタビューを継続的に実施できたことは、本研究の精緻化に向けて重要であった。本研究は、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)とWANEPとが形成する紛争予防・早期警戒ネットワーク(ECOWARN)についての形成経緯についての内容を取材することを前提としていた。当初はナイジェリアのアブジャを訪問し、同地に所在するECOWAS本部の関係者に取材をする予定であったが、当該年度も現地では爆発物によるテロ行為が見られたため、安全上の理由からナイジェリアへの渡航を自粛せざるを得なかった。しかし、今回の国外出張先となったリベリアにおいてECOWAS関係者と接触することが可能となったため、ECOWARNに関する貴重な内容を併せて取材することができた。 以上の理由から、当該年度は現地情報収集面に加え、論文執筆等研究内容面についてもおおむね順調な進展ぶりを見出すことができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度で公表した研究成果をベースとして、「セキュリティ・ガバナンス」に関する議論をより一層深めつつ、研究成果を推進していきたい。「セキュリティ・ガバナンス」の「多元性」、「非公式性」、「共通目的の流動性」といった特色は、単一的な統治体系を目指すという意味での「ガバナンス」のあり方とは矛盾するものである。最終年度にあたる次年度には、このような本来的矛盾についてもより注意深く検討しつつ、アフリカの事例をもとにさらなる議論を展開したい。 現地調査として、紛争予防に関するECOWASとの連携、市民社会組織との連携の動向についてさらに探る。これらの連携メカニズムについて、その政策決定過程・プロセス・内容を取材することで、どのような「信頼構築」、「学習プロセス」を経ているのかを理論的 枠組みを通して分析する。研究成果についても、国内外に向けた論文報告を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。 次年度(平成25年度)に実施する研究報告・取材として、第一に、欧州への出張一回を考えており、係る国外出張費が必要である。 第二に、研究対象である市民社会組織と地域機構との紛争予防・早期警戒に関する取組の継続的調査のため、ケニアおよびエチオピアへの出張があり、係る経費として国外出張費・ビザ代等が生じる予定である。 第三に、新規の書籍等、関連図書・資料の購入に係る経費が必要となっている。 以上の必要経費をもって、本件研究課題を予定通りに次年度末で終了したいと考えている。
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Research Products
(4 results)