2013 Fiscal Year Research-status Report
2013:数値目標失効後の世界-機能が低下した地球環境ガバナンスの行方
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23530189
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Research Institution | The University of Shimane |
Principal Investigator |
沖村 理史 島根県立大学, 総合政策学部, 教授 (50453197)
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Keywords | 国際情報交換 / ガバナンス / 気候変動問題 / 国際関係論 / 政治学 / 環境問題 |
Research Abstract |
気候変動問題に関する国際規定を定めた京都議定書は、2012年にドーハで開催された気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)で改正(ドーハ改正)された。しかし、ドーハ改正では、EUなどの先進国の一部に数値目標が課されたものの、日本、アメリカ、カナダ、ロシアなどには数値目標が課されなかった。さらにドーハ改正は、未だ発効しておらず、2013年以降は、国際法上は、数値目標失効後の世界を迎えている。 本研究は、2013年以降の数値目標が失効した後の世界で、機能が低下した地球環境ガバナンスがどのように変容し、再構成されるのかに研究関心を寄せている。具体的な研究の対象は、気候変動問題に関する地球環境ガバナンスシステムとしての気候変動枠組条約体制である。そこで、平成25年度は、調査代表者は気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)と作業部会に参加し、政府間交渉で模索されている地球環境ガバナンスシステムの制度設計の決定過程について情報収集を行った。COP19では、2020年以降の気候変動問題に関する地球環境ガバナンスシステムを2015年までに策定するための作業部会で、今後の方向性を探る議論が開始されたが、京都議定書に参加しなかったアメリカや世界最大の二酸化炭素排出国となった中国を含む世界規模での国際制度設計の具体的な内容は、様々な意見は出たものの、方向性は収束せず、今後の交渉に委ねられることとなった。 また、気候変動枠組条約を補完し、地球環境ガバナンスを支えている、地域的、国際的な取り組みについても調査を行った。調査対象とした気候変動問題を含む地域的な国際環境制度の現状や、今後の動向についても、とくにアジアにおける国際社会の対応とその課題を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、12月に開催された気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)に参加し、事例分析に必要な情報収集に努めた。具体的には、昨年のドーハにおける締約国会議で合意された、一部の先進国に対して設定された2013年以降の京都議定書第二約束期間の数値目標(ドーハ改正)と、2020年以降の米国や主要発展途上国を含む全世界を対象とする、強制力を持つ国際制度(ポスト2020年体制)の二つの仕組みからなる複合的なグローバルな地球環境ガバナンスシステムをどのように調整・設定するのか、気候変動枠組条約締約国会議やポスト2020年体制を議論する作業部会(ダーバン・プラットホーム)といった政府間交渉会議で議論されている内容を調査した。この実態調査を踏まえ、日本、カナダ、ロシアといった京都議定書第二約束期間に数値目標が設定されない国々が生じることで機能が低下する地球環境ガバナンスの変容の現状を、引き続き調査した。また、4月に行われたダーバン・プラットフォームの作業部会にも参加し、EUにおける域内排出枠取引制度(EU-ETS)や北東アジア地域における地域的な取り組みなどについての資料収集や関係者への聞き取り調査を行った。 これらの調査の成果は原稿にまとめたものの、諸事情で平成26年度に発表されることとなった。このように、2012年末に京都議定書第一約束期間が終了し、数値目標が失効した後の国際社会において機能が低下した地球環境ガバナンスの状況について、多様な観点から調査を行うと共に、その研究成果をまとめつつあるため、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度となる平成26年度も、引き続き、気候変動枠組条約の条約交渉に参加し、条約交渉の行方をその最前線で調査すると共に、交渉に参加している多様なステークホルダーの主張に関する情報収集を行う。具体的には、地球環境ガバナンスシステムの制度設計が議論されている気候変動枠組条約第20回締約国会議(COP20)や米国や主要発展途上国をも含むグローバルな地球環境ガバナンスシステムとして2020年以降機能させることが目指されている新制度を議論する作業部会(ダーバン・プラットフォーム)に参加する。そこでは、ダーバン・プラットフォームにおける政府間交渉の議論の内容に加え、主に欧州などの参加者から、京都議定書第二約束期間が欧州に設定された後に変質しつつあるEU域内排出枠取引制度や、世界の各地域で制度設計や運用が始まっている次世代炭素市場の制度設計に関する議論の状況に関する聞き取り調査を行う予定である。 また、同時並行して、気候変動枠組条約を補完する北東アジア地域や他地域の地域的な地球環境ガバナンスシステムの取り組みに関する文献調査や聞き取り調査も行う。これにより、ドーハ改正が発効するまで、国際法的には数値目標が失効している現状で、機能が低下している気候変動枠組条約制度を補完する地球環境ガバナンスの在り方について、国際社会がどのように対応しているのか、調査・分析を行う。その上で、気候変動枠組条約体制という一レジームにとどまらず、補完関係にある地域的な取り組みを含めた総合的な地球環境ガバナンスがどの程度機能するのか、評価分析を進める予定である。最後に、数値目標が失効した世界を眼前に迎え、国際社会がどのように地球環境ガバナンスを形成しようとこの数年間対応してきたのかについてまとめ、最終年度のとりまとめを行う予定である。
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