2012 Fiscal Year Research-status Report
「日本方式」の研究―「二つの中国」ジレンマ解決への外交枠組み、その起源と応用
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23530197
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
平川 幸子 早稲田大学, アジア太平洋研究科, 助教 (80570176)
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Keywords | 中国 / 台湾 / 日本 / マレーシア / タイ / フィリピン |
Research Abstract |
本年度の主な研究目的は、東南アジア諸国に「日本方式」が伝播した背景を、資料調査によって解明することであった。以下が、主な論点である。①戦後の東南アジア地域において「二つの中国」問題は、対中政策をいかに制約していたのか、また、域外国(米国、英国など)は、どの程度影響を与えていたのか。②東南アジア諸国で生まれた地域主義に、どの程度、中国問題が関わっていたのか。また、どの程度、共通の対中政策を取っていたのか。③対中国協調政策を取っていながらも、各国により中国との国交正常化の時期が違うのはなぜなのか。また、その違いもかかわらず、「日本方式」という似た解決方法に落ち着いているのはなぜなのか。④マレーシア、タイ、フィリピンなどが、対中国、対台湾において、どの程度、日本方式を参考としていたのか。 平成24年度では、東南アジア諸国と中国の国交正常化、及び台湾との断交について、おおむね当初の計画通り資料収集を行い、中国語、マレー語などの翻訳者もまじえて整理作業を進めた。当該地域駐在の英国領事館が作成した資料を集めるために英国のアーカイブでの調査も行った。その後、台湾国史館でも同様の資料調査を行い、クロスチェックができる箇所は可能な限り作業を行った。 研究成果として上記の5つの問いに対して以下の点が明らかにされた。①マレーシア、シンガポールにおいて「二つの中国」とも外交関係を持たないという独自の方式が見られた。②ASEANの最初の政治的イニシアチブであるZOPFANにおいては対中政策で秘密合意があった事実を解明した。③ASEAN内の内政不干渉原理から各国家単位で対中政策を実行したが、その方式については一体性を保つため報告・相談を重視した。④マレーシアの場合は独自の方式で進めたが、タイとフィリピンの事例では先行モデルとして日中国交正常化、日台断交の例が、かなり強く意識されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
学内研究機関より平成24年度の出版機会を得たことにより、当初計画よりもかなり早めに資料調査、聞き取り調査、原稿執筆を集中的に行った。新たな資料、聞き取り調査結果をなるべく利用しながら、博士論文原稿を大幅に加筆修正した。その成果は、2012年8月に、現代中国地域研究叢書『『二つの中国と日本方式ー外交ジレンマ解決の起源と応用』(勁草書房)として出版した。現在では、同書を扱う研究会、書評会などに呼ばれることも多く、研究内容だけではなく方法やアプローチの点でも一定の成果を提示することができたと感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の主要部分は既に単著の形で出版を行ったが、予定よりも早く出版したために、資料調査、聞き取り調査が不十分だった部分もある。たとえばカナダ・中国の事例などは、ほとんど反映することができなかった。しかし、研究の重点はアジア・太平洋地域であるという基本的な方針に変更はない。 東南アジアの聞き取り調査に関しては、出版後にマレーシアを中心に、中国・台湾との関係構築にかかわった当事者インタビューの機会が生まれ、たとえば決定的要因となった華僑問題についてさらに補足すべき論点があると手ごたえを感じているところである。今までの研究成果で、ASEANが水面下で対中国、台湾政策で協調していた事実をかなり解明できた。中国問題がASEANという組織の発展を促したという視点からの論文発表は、東南アジア地域研究、アジアの地域主義・多国間主義の研究関心からも評価されうるものではないかと考える。また、日中関係、米中関係との連動の事実から、アジア太平洋地域の一般的な国際関係として論じていくことも可能である。「日本方式」の起源を研究したことにより日本の外交政策を再考する契機も生まれた。また、本研究がかなり幅広い広域における国際関係を扱う性格から、アジア広域研究、広域史など研究手法、アプローチの提案作業も行う意義があると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ASEAN諸国と中国問題についての補足的な独立論文を執筆するために、マレーシア、タイ、フィリピンを中心に海外出張を行う。出張旅費とともに、マラヤ語、タイ語、中国語を話せる通訳者、資料翻訳者への謝金を支払う。また、本研究を主たる根拠として、アジア太平洋地域の国際関係の特徴、広域史の構築、日本外交の再考を広く世に問うような論文を執筆するに当たり必要な経費が発生した場合は、その用途に使用したい。
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