2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530198
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山田 満 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (50279303)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉川 健治 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (30512727)
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Keywords | 平和構築 / 適正規模の開発 / 東ティモール / ラオス / 紛争 / 国家建設 / 東南アジア / ASEAN |
Research Abstract |
第1年度はラオス調査訪問を主として研究活動を実施したが、第2年度(当該年度)は東ティモール調査を主として研究活動を実施した。東ティモールは2002年5月独立以来2007年に次ぐ、2度目の国政選挙を2012年に実施した。3月に大統領選挙、4月に大統領決選投票、7月に国民議会選挙を無事に実施して、2006年4月前後の騒擾事件後、派遣されていた治安部門を擁していた国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)が、同年12月末をもって撤退した。 今回の選挙の争点は、第一義的には安定した国政選挙を実施できるのか、国内の治安を自前の警察力で維持できるのかであった。しかしその一方で、国連撤退後の社会経済的安定の展望を現グスマン連立内閣が提示できるのかも重要な争点であった。 騒擾事件後の2007年の国政選挙で政権を掌握したグスマンは、まず石油基金を利用して元ゲリラ兵士への年金給付を行うことで彼らの不満を解消し、次に騒擾事件で大量発生した国内避難民に、被害に応じて補償金を出すことで同問題の解決を図った。しかしながら、本質的な問題である国内産業の育成、雇用の創出は解決されていない。 第1次グスマン内閣は、首相自ら全国65のサブ・ディストリクト(郡に相当)をまわる、コンサルテーションを実施して、その後「戦略開発計画(SDP)」を発表した。そこで、2012年の国民議会選挙の争点は、与党が出したSDPによる産業の育成、雇用創出の展望に対する国民の審判であった。野党フレティリンはSDPには反対であり、選挙の争点が明確化できた。SDPは「紛争から繁栄へ」をスローガンに、政治的意志、経済的潜在性、国民統合、人口の活力の4政策を柱に立てることで、経済発展への道筋を示している。東ティモールに関する「平和構築と適正規模の開発」は、まずはSDPの精査であり、ラオスの新思考政策との比較研究を視野にいれたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1年度は、共同研究者とラオスでの調査訪問、第2年度は、研究代表者自身と共同研究者との合同調査を含む2度の東ティモール調査を実施した。両国の調査訪問においては、まずラオスがラオス国立経済研究所の研究者らと、東ティモールでは東ティモール国立大学政治社会学部、及び平和紛争研究センター所長らとの意見交換、聞き取り調査を実施手して、文献研究を補完する、あるいは新事実の収集を可能にした。また、研究代表者自身の個別訪問では、グスマン首相、グテレス副首相(当時)、ピレス財務大臣、レイ・インフラ大臣(当時)をはじめ政府指導者、国連東ティモール統合ミッション代表など国連担当者らとの意見交換、及び聞き取り調査を実施することができた。政策立案、及び政策実行者側からの「適正規模の開発」に関する聞き取りができた。 資料収集に関しては、ラオスではメコン川委員会博物館、東ティモールでは同国民族博物館、戦争博物館などで入手することができた。また、東ティモール関係では、お茶の水女子大学大学間連携プロジェクトへの参加を通じて、東ティモール関係者(研究者、JICAプロジェクトなど)との意見交換、情報収集を行うことができた。 さらに、2012年12月10日と11日にバンコクで開催された「アジアの選挙に関わる利害関係者フォーラム」に参加した。同フォーラムにはアジア各国から100人規模の研究者、選挙管理委員会関係者、NGOスタッフらが集まり、全体フォーラムと分科会などで積極的な議論を展開した。本フォーラムの主要テーマは「自由で民主的な選挙の運営」に関する会議であったが、他方で東ティモールをはじめ、東南アジア各国からの参加者とは個別に「平和構築と適正規模の開発」に関する意見交換や議論をすることができた。平和構築における開発の重要性は長期的な国家建設において各参加者が合意する事項であった。。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は本科研研究計画の最終年度である。科研調査研究の最終的なテーマである「長期的視野を持った開発期の社会経済的側面に焦点をあてた平和構築研究」を基本的な視野に据えて、「積極的に平和構築に資する開発の適正規模」とは何かに関して、一定の提言、成果を明らかにする予定である。 本研究は、かつての紛争地のラオスと紛争後の東ティモールという東南アジア地域の小国を対象にしているが、最終年度となる2013年度は両国への最終研究調査と、両国の開発におけるステークホルダーにも視野を広げて最終調査報告をまとめたい。具体的には、ASEAN、オーストラリア、フランス、国連などの援助提供国・関係者、さらには平和構築部門担当者への聞き取り調査も可能な限り実施する予定である。 また、2013年6月実施の国際開発学会での「平和構築とガバナンス」部会の座長として、同年10月に実施されるアジア政経学会東日本大会(早稲田大学で実施予定)、日本国際政治学会(新潟市での開催)、さらには月例研究会の「21世紀アジア研究会」、「SSR(治安部門改革)研究会」などでの発表を通じて、同じ領域の研究者、学際的なアプローチによる紛争後の開発を研究する研究者などとの意見交換や議論を通じて、本科研調査研究の可能性を拡大して、最終報告書を作成する。 最後に、上記学会や研究会での口頭報告以外にも、最終報告書と別に、本研究に関連する研究成果を大学紀要、大学出版助成を利用した出版、さらには英文での論考も発表することで、ラオス、東ティモールの両研究機関、さらには平和構築関係者など関係各所への送付を通じて、本研究に関するフィードバックを行う。併せて、その反応を受うけることで、同研究の新たな展開を考えたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の2013年度は、本科研調査の最終年度である。したがって、過去2年間の研究成果を踏まえて、ラオス、東ティモールへの再渡航、再調査、さらには両国の「平和構築と適正規模の開発」を支えるドナーへの聞き取り調査、及び資料収集を実施する。現在のところ、東ティモール支援を精査するうえで、ASEAN諸国、オーストラリア、ポルトガル、ニューヨークの国連、特に国連開発計画(UNDP)の聞き取り調査を、またラオスではフランスなどの渡航調査を視野に入れる。もちろん、旅費の関係上、上記調査先の選定を報告書作成プロセスで精査していく。場合によっては、研究協力者の出張依頼を考えて、より多面的な側面からの研究成果を選択肢に入れる。 また、調査旅行にともなう、通信費、謝金、帰国後の資料整理と収集にともなう消耗品の購入、研究補助に対する謝金も考える。最後に、英文報告書作成をするうえでの専門的な翻訳機関への依頼も考える。
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Research Products
(5 results)